会話のタネ!雑学トリビア

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部外者に対して露骨な警戒を示す村

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目的の場所は、N町のはずれにあるOと呼ばれる地域なのだが、ここに関する噂がちょっと穏やかではない。近隣に住む情報提供者の言葉を借りれば、
「知らない人間が行くと、すぐ警察に通報されるんですよ。怪しいからって。聞いた話だと住人から袋叩きにあった人もなかにはいるみたいですよ」
 これはさすがに大げさ過ぎやしないか。いくら何でも袋叩きって。でも、火のないところに煙は立たないとも言うしな…。遠方の取材につき、ひとまずN町内の旅館(Oとは異なる地域)に宿泊予約を入れることにした。
「あの、明日そちらで一泊したいんですが」
直後、予想もしないリアクションが。
「ええっ!?何しに来られるんですか?」
驚いたのはむしろこっちだ。旅館を予約するのに用件まで聞かれた経験などいまだかつてない。「いや、まあ、観光ですけど…」
「…はあ。かしこりました。大丈夫ですよ」
「じゃ、お願いします」
電話を切る直前、また相手が遠慮がちに聞いてくる。
「あの、でも、何しにいらっしゃるんですか?」
「いや、だから観光ですけど」
「うーん、そうですか」
 どういうことだろう、この謎の対応は。旅館のくせに、よっぽど宿泊客が珍しいらしい。翌日、新幹線と在来線を乗り継ぎ、さらにはバスを使ってようやく旅館に到着した。特に変わった様子もなく、フツーに受付けを済ませて荷物を置き、タクシーを呼んで問題のOへ。
 集落はかなり山深い場所にあった。果てしなく伸びた山道に沿う形で民家がポツポツと建ち並んでおり、見たところあたりに人影はない。目の前の雑木林からはカナカナカナとひぐらしの鳴き声が聞こえる。山道を上に向かって歩いてみた。しかしいくら進めど人の気配はなく、何気なく足を止めたタイミングで、視界に異様な光景が。山道の側面からせり上がった崖のような場所で、1人のバーサンが壁にへばりついているのだ。あんなとこで農作業でもしてんのか?
「こんにちは〜。何なさってるんですか?」
 数秒ほど後、目を恐ろしくつり上げたバーサンから激しい怒声が飛んできた。
「何だオメーは! 帰れ!」「…え?」
「帰れってってんだ! 勝手に入ってくんな! !ほら帰れぇ!」
崖をもぞもぞと這いずりながら、バーサンは威嚇するように何度もこちらを睨みつけ、やがてヤブの中へと消えていった。あの人、何をあんなに怒ってたんだろ。怖!バーサンの迫力に気押され、もと来た道を戻った。途中、犬を散歩するジーサンとすれ違ったので、緊張気味に頭を下げる。
「こんにちは」
「はい、どうも」
ニコリと会釈を返し、そのまま通り過ぎるジーサン。どうやら何事もなさそうだ。その後しばらくして、今度は農作業着姿のオッサンが前から歩いてきた。よし、また挨拶だ。
「こんにちは」
「やあ、こんにちは」
 オッサンは笑顔ですれ違っていく。いささか拍子抜けた気分になった。何だかぜんぜん、閉鎖的な空気がないんですけど。
 ふと目の前に、先ほど通ったときには気づかなかった脇道を発見した。先へ進んでみると、奥は行き止まりになっており、巨大なゴミの山がそびえている。おそらく不法投棄されたものだろうが、異臭がハンパない。うっすらと生き物の焼けたようなニオイまで混じっているように思えるのは気のせいだろうか。おえっ、胸がムカムカしてきた。たまらずゴミ山を退散し、もとの山道に戻った矢先のことだ。何気なく後ろを振り返ったところ、さっきすれ違った犬を連れたジーサンと農作業着姿のオッサンが、30メートルほど離れた場所で並んで立っている。どうやらあの2人、知り合いのようだが、何でこっちをチラチラ見てるんだろ。嫌な予感がした。もしや監視されてる?小走りになって先へ先へと進む。やがて立派な石柱のある神社までたどり着いたところで息が上がり、ようやく足を止めた。ハアハア、もうこれでおらんだろ。けっこう走ったからな。まだいた。走り出す前とほぼ同じだけの距離を保って、依然とこちらの様子を伺ってる。さすがに恐怖心がこみ上げ、思わず叫んだ。
「あの〜、何かご用ですか?」
 返事はない。男たちは無言でしばし顔を見合わせた後、ゆっくりと山道を引き返していった。いったいこの集落の不気味さは何なんだろうか。宿へと向かうタクシーの中で、今日の出来事をかいつまんで説明すると、運チャンが興味深い話を口にした。
「ときどき、ここらの山から身を投げる人がいるんですよ。だからきっとお客さんも自殺するんじゃないかって勘違いされたんじゃないんですかね」
 その夜の宿でも、とりたてて冷たい対応はなかった。