会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

地獄の現場でも待遇が良くなるご機嫌とりフェラ女

ネット通販といえば、アマゾンか楽天か。今やそのどちらも使っていない人はいないんじゃないかと思えるほど、両社の販売額はケタちがいに大きい。たとえば『アマゾン』は、酒でも洋服でもエロ本でも、「ポチっ」とクリックするだけで、数日、早ければその日のうちに商品が家庭へ届けられる。驚くべきスピードだ。
その利便性のキモは〝倉庫〞にある。単純に考えてみればわかる。なぜクリック当日に商品が届くのか。24時間、瞬時にその商品をピックアップし、梱包して発送する、その全過程がシステマチックに行われているからにほかならない。
本ルポは、その『アマゾン』の巨大倉庫で働いた青年の体験談である。
5年前の9月、地元の求人フリーペーパーにこんな募集が出ていた。
〈簡単倉庫内作業 時給950円無料送迎バス有 深夜勤務も可●●通運〉
高校を出てから倉庫内作業バイトを転々としてきたオレ。時給950円スタートは
なかなか魅力的だ。さっそく電話をかけ、面接へ。指定された駅から送迎バスに乗り、巨大な倉庫の前で降りた。事務所で履歴書を渡した途端、すでに採用は決定したかのような形式的な面接が始まった。
「いつから勤務できます?」
「明日からでも大丈夫です」
「週何日をご希望ですか? 日勤と夜勤、どちらがいいとかあります?」
「週5、6は出れます。日勤でお願いします」
「わかりました。仕事はピッキングです。経験はありましたっけ?」
ピッキング』とはリストを元に、倉庫内の商品を集める仕事だ。過去に一度、スーパーに卸す缶詰のピッキングをやったことがある。「はい、経験あります」
「ちなみにウチが扱うのは『Z』さんの商品ですので」ビッグな社名に驚いた。なんと、ココはあのZの倉庫だったのか。つまり●●通運がZの仕事を請け負っているカタチのようだ。正式に採用が決まり、翌日、朝7時。例の送迎バスに乗りこむべく列に並ぶ。バスが来るのを待つ間も、乗車してからも、他の人たちの会話は聞こえてこない。みんな静かに外を見ていたり、ケータイでゲームをしてるようだ。倉庫前でバスを降りて事務所へ。タイムカードを押して担当の社員さん(Zの社員ではなく●●通運の人間)と合流し、簡単なオリエンテーションを経て、まずは巨大な倉庫内を案内してもらうことになった。2階建ての倉庫は、およそ200メートル四方の正方形。野球場のホームから外野ポールがだいたい100メートルと思えば、その巨大さはわかっていただけるだろう。1階には無数のダンボール箱が広がっている。トラックで運ばれてきた本やDVD、家電などがぎっしり詰まっていて、それをバカみたいな人数で開封したり検品している。ここは「インバウンド」という部門で、作業員は出入り業者から荷物を受け取って、保管庫にひたすら陳列していく。つまりは商品が「イン」してくるのが1階だ。
エレベータで2階へ。フロアの端に詰所(●●通運の社員が使う部屋)があり、それを背にしてフロアを眺めてみる。眼前の光景に、思わず言葉を失った。図書館に置いてあるような大きな本棚がフロアの左半分を占め、ずっとずっと遥か先まで続いている。その距離たるや、端っこ同士に人が立ったら顔が判別できないほどだ。フロア右半分はもう少し低い本棚が同じように向こうまで続いていて、そのさらに奥には大きいダンボールが異常な数、積んである。冷蔵庫や洗濯機などの家電、自転車、ハミガキ粉や洗剤などなどの生活雑貨なんかが積み上げられているそうだ。この2階は「アウトバウンド」部門。注文を受けた商品を保管庫から集めて(これがピッキング)、梱包・発送という、商品の「アウト」作業が行われる。
「では向井さんに働いてもらうエリアに行きましょう」
担当者のあとについて歩く。オレの持ち場は倉庫の左半分を占める本棚エリアらしい。一つの棚が50メートルほどの長さで、それが全部で70列。棚には、図書館と同じように背表紙を向けた状態で本が置かれている。70万冊以上も保管してあるそうだ。少なく見積もっても100人以上の人間がフロアを行ったり来たりしている様は圧巻だ。今まで働いてきた工場や倉庫とは何もかもが違う。作業前に、ファミレスの店員が持っているような端末と、買い物カゴを手渡された。
「これはハンディです。ピッキングに使う大事な道具ですね」随時、ハンディに商品名と位置情報が表示され、それを見ながらこの広いエリアを探し回り、見つけた本をこのカゴに入れていくわけだ。『位置情報』はこのように表示される。
〈A16C351月号〉最初の「A」は本棚エリアを意味する。オレは本専任のピッキングなので、端末にはAで始まる商品しか表示されない。続く「16」は、本棚の番号だ。長さ50メートルの巨大本棚は全部で70もある。1〜70の通し番号が大きく貼り出されているので、この位置情報が届けばすぐ16番へ急ぐことになる。次の「C」は、本棚の段を表す。本棚は5段になっていて、一番下からA〜Eと数える。なお、Eは高すぎるので台に乗らなければ届かない。最後の「35」は、棚の中のどのあたりに商品があるかを示している。なにせ一つの棚で50メートルもあるのだ。おおよその位置がわからなければ商品は見つからない。「35」の仕切りがあることでようやく目的の本にたどりつけるわけだ(仕切りはひとつの棚に300ほど)。最後にハンディで本のバーコードを読んでからカゴに入れてピックアップ1冊分が完了する。「ではさっそく仕事に入ってもらうのですが、ハンディには向井さんの仕事量が記録される仕組みになっています」
「は、はい」「目標は1分間に3つの商品をピッキングすることです」
1分間に3冊? ノルマみたいなもんか。
「あと、くれぐれも走らないでくださいね。人とぶつかって事故の元になりますから。それで作業が止まるのが一番非効率的なんです。Zはなにより効率性を求める会社なので、肝に銘じておいてください」走らず、1分間で3冊。単純に20秒で1冊ピックアップの計算になるが……。仕事が始まった。手渡されたハンディの画面には位置情報と聞いたことのない鉄道雑誌の名前が。えーっと、61通路…って、ほぼ倉庫の端っこじゃん。走ってはいけないそうなので早歩きで61番へ。ようやく到着して、次は位置を確認だ。15の位置、ここか。で、上から2番目の高さだから…。あった。なんだこの本、すげーオタクっぽいじゃん。あっ、バーコードをスキャンするんだよな。ピピッと。カゴに入れたら次だ。今度は10番か。逆戻りかよ。なんとか3冊集めたところでハンディに表示が出た。〈今回のスピード 1・1冊/分〉1分間に1・1冊のペースで仕事をしたという意味らしい。1分で3冊が目標とか言ってたからぜんぜんダメじゃん。なんて反省してるヒマはない。ハンディには矢継ぎ早につぎの商品が表示される。再び3冊集めたらあの表示が。
〈今回のスピード1・2冊/分〉またダメだ。担当のAゾーンは端から端まで歩くのに
少なくとも40秒はかかる。1分間に3冊だなんて夢のような数字だ。目標を達成する気配もないまま、これでいいのかと不安になりながらひたすらピッキングを続けていく。
10時を過ぎたころ、フロアに立ってるリーダーから休憩の声が飛んだ。ずっと早歩きしっぱなしでうんざりしてたのでありがたい。喫煙室には他の作業員がたくさんいた。隣の中年男がオレの肩を叩いてくる。「新人さんでしょ? どうよ」50才ぐらいだろうか。てっぺんがハゲかけてる、ザ・おっさんだ。「はい、よろしくお願いします」「大変でしょ?」
「けっこうキツイですね。そういえばなんで本が50音順に並んでないんですかね。タイトルとか著者名とか、バラバラになってますけど」
「それね。Zは効率を最優先してるから」
オッサンが言うにはこれは他の倉庫にはないZ独特の保管方法らしい。入荷してきた本を棚に陳列するインバウンド担当バイトが、膨大な量をいちいち名前順に並べ替える労力をかけず、そのままドカっと陳列するだけで済む利点があるのだとか。ふーん、でもそのぶんピックアップにしわ寄せがきてるようにも思えるけど。昼になり休憩室で昼食タイムだ。持参したカップ麺や弁当を食べてる人がほとんどのようだ。さっきのオッサンがいろいろ教えてくれた。この倉庫全体で常時150人以上のバイト作業員が入っていて、Zの社員は数名しかいない。彼らは現場に出てくることはなく、倉庫外の事務所で仕事をしている。なので現場にいるリーダーを含む社員さんはすべて請負会社の人間らしい。午後になっても相変わらず1分1・3冊とかのペースで仕事を続けていたら、リーダーから声がかかった。「向井さんちょっといいかな?」倉庫の端にある社員さんの詰所に連れて行かれた。パソコン画面にオレの名前、さらに棒グラフと数字が表示されている。「これね、キミの仕事の履歴なんだけど、何が言いたいかわかる?」
「ええと…1分に3冊っていうやつのことですよね?」
「そう。わかってるじゃん。1・2冊とか1・5冊とかじゃダメなんだよ。ここでは新人でもすぐにベテランさんと変わらない数字を出さないとダメだからさ」マジか。バイト初日だってのにいきなり厳しくない? 
「すいません」「はい、じゃあ仕事に戻る。走らないようにね」
それ、それだよ。走らせてくれよ。走ればなんとかなると思うんだけど…。その後もペースはいっこうに上がらないまま1日を終えた。他のバイト連中を見ても特段早いような人はいないし、何かコツがあるわけでもなさそうだ。物理的に無理がある目標としか思えないんだけどな。帰りのバスで席についたとき、足に異常があることに気づいた。太ももとふくらはぎがビリビリっと痺れている。競歩を一日やってヘンな筋肉の使いかたをしたのだろう。翌日ちょっとした奇跡が起きた。ハンディに表示された書籍がたまたま3連続で近場にあったのだ。ラッキー。
〈今回のスピード5・6冊/分〉よしよし。これはものすごいんじゃないか?だが次の3冊はいつもどおりバラバラの場所に置いてあるものだった。結果は1分に1・4冊だ。あーあ。昼休憩の直後、詰所に呼び出された。これまた棒グラフを前にお説教だ。
「もうちょっと効率的に動かないと目標達成できないよ」
「でも精一杯急いでるんですけど」「達成できなきゃ意味ないから。この数字が次の契約を結ぶかどうかの判断基準になりますので」え、いま何て言った?
「今回の契約は2カ月だから、次に繋げるためにもがんばって」オレが面接で聞きそびれていたのかなんなのか、この倉庫では2カ月という単位でバイト契約の更新があるそうだ。目標達成率や出勤の回数、遅刻欠勤の状況などを鑑みた査定により、そこで打ち切られることもあるらしい。
「スピードをあげるために何かコツとかはあるんですかね?」
「コツはないです。でも達成してる人がいるんですから、できないはずはありません。さ、作業に戻ってください」なんだよそれ。こうやって詰所で説教されてるバイトはオレ以外にもたくさんいる。ときにはピッキング作業中にリーダーから檄が飛ぶことも。
「○○さん!手を止めないで聞いてね!遅すぎるよ!もっと急いで!」
大げさでもなんでもなく、オレを含む大人数が、最低一日に一回、社員から遅いと言われる有様だ。周りのバイトたちに聞いてみたところ目標達成してる人はほとんどいない。これだとみんな2カ月でクビになるってこと?そんなことある?1週間ほどしたある日、夕方5時であがろうとしたところで社員から詰所に呼びだされた。イスに座らされ、A4用紙を二枚手渡される。
「こっちがキミの数日の成果ね。そしてこっちにはなぜ目標が達成できないのか、改善策を記入して」初日が1分に1・4冊、2日目が1・6冊。たしかに全然ダメだけど、こうして数字で出されると自分がマジで駄目な人間のように思えてくる。もう一枚には『目標達成のために改善すべき点を複数あげてください』と書いてあり、その下に記入スペースが。何を改善すればいいかなんてわかんねーし、とりあえず適当に書いとくか。「走らないようにしながらも、最大限急いで歩いて、1冊ピッキングしてからも迅速に次に移る意識を持ちたいと思う」みたいなコトをツラツラ書いた。これで終わりかと思えば、目の前に座るリーダーはまだ何か言いたそうだ。
「このさあ『迅速に次に移る意識』っていうのは具体的にどういうことを意味してるの?」「え、えーっと、一冊終わったところで一息つくんじゃなくてすぐに動きだすっていうか」「今まではひと息ついてたんですか? それはダメでしょ」
「一息っていうか、別に休んでるんじゃなくてちょっと深呼吸するぐらいですけど…」
「まあ効率を考えたらそれもほどほどにというコトですかね。仕事中は何か考え事をしながらやってます?」「いえ、特に」「余計なコト考えてると、自然と歩くの遅くなりますから、仕事に集中してくださいね。あとは…」およそ30分、改善法を考える時間が続いた。とはいえオレからも、ましてや社員からも抜本的な改善策は出てこない。彼らが言うのは「意識を変える」「無駄な動きをしない」「仕事に集中する」みたいな言葉ばかりだ。この〝改善ミーティング〞は週に一回のペースで行われる。参加するバイトはオレだけのこともあれば、2、3人まとめての場合もあるが、やはり話される内容は意識を変えようみたいなことのみだ。入社して2カ月が経った。オレの作業スピードは相変わらずだが幸い契約は無事に更新された。でも数字で査定するってのがウソとは言い切れない。なんせクビになってる人もたくさんいるのだ。なぜオレが残されたのか、理由はわからないけど、Z社の意向と言うよりは●●通運の社員の気まぐれかもしれない。いくらバイトが辞めても次のバイトがすぐに入ってくるので、倉庫作業の効率自体はなんら変わることがない。毎日のように新人が入り、リーダーや社員の檄に耐えられずに辞めていく者もいる。新人でもベテランでもピッキングの速さはさして変わらないので、まさに「代わりはいくらでもいる」状態だ。そして先輩バイトから聞いた話によれば、今後いくら長く勤めたとしても時給があがることはないそうだ。つまりピッキングのスピードを改善できたとしてもオレはずっと時給950円ってことだ。何をモチベーションに仕事をすればいいのか。このへんは他の同業バイトでも同じかもしれないが、特にZ社の倉庫ではそれが如実のように思う。人間というより「ピッキングロボット」として扱われている感覚というか。12月頭、バイトの数がさらに増え、常時200人以上が倉庫をウロウロする状態になった。クリスマスから年末に向かう繁忙期だ。
朝礼で社員から声があがる。「年明けまで荷物の量は1・5倍から2倍以上に増えます。目標を達成できていない人たちは必ず数字を達成できるようにしないと、いつまで経っても終わりません! 各自、さらに集中して仕事に取り組んでください! ただし構内は絶対走らないように!」
すぐに仕事が始まったが、どう頑張っても1分3冊のペースにならないのは相変わらずのまんまだ。オマケに人が多いので、ハンディを見ながら歩いてるとぶつかりそうになる。その瞬間に社員の声が飛ぶ。
「気をつけなさい! 事故をしたら作業をストップしなきゃなんないんだから!」
さらにそこかしこから社員の声が聞こえてくる。何を怒られてるんだか。急に一人の社員がオレのハンディを覗き込んできた。
「1・8冊(1分あたり)ってなに? もっと急がなきゃ!」あ、怒られた…。くそ、社員の目がいつもより厳しいなぁ。さらにクリスマスが近づいてきたある日、遠くから大声が聞こえてきた。
「いたたた! ふざけんな!」何事かと近づけば、バイト同士がぶつかったらしく、片方の額から血が出ている。うわー。すかさず社員が寄ってきた。
「こら、オマエら走っただろ!」「オレじゃなくてこっちが…」
「走るなって口酸っぱく言ってるよな? 
ほら見ろ、みんなの手が止まってるじゃね
ーか!」
そりゃあ走ったヤツが悪いのかもしれないし、社員が毎日のように「走るな」と言ってるのも事実だ。でもこの忙しさで「とにかく急げ」とケツを叩かれてるわけで、こういうコトが起きるのも不思議じゃない。 件の二人は詰所に連れていかれ1時間近く説教を受けていたようだ。世間のボーナスシーズンや年末、入学入社を控えた3、4月はZ社の繁忙期と呼ばれ、倉庫ではせわしない毎日が続く。そうなるとこうした事故がちょこちょこ発生するようになる。かくいうオレも一度、ハンディに集中して歩いていて社員とぶつかったことがある。
「オマエ、走ってただろ?」「走ってないですって、イテテ…」転んで少し足をひねってしまったようだ。ていうかコイツの態度なんだよ。
「とにかく改善ミーティングするから詰所に来い」
「ちょっと足が痛いんですけど」
「じゃあ救護室に行ってから来い」倉庫内にある救護室で医者に見てもらい、シップを貼って詰所へ向かう。「まずね、絶対に走ってはいけないと言ってるじゃないですか」
「走ってはないんですって。ハンディに集中してて」
「走ってなかったとしても事故を起こされると困るんですよ。では改善の方法を考えましょう。これを記入して」でたよ、また改善だ。意味ないってのに…。繁忙期には事故だけでなく、その膨大な物量を扱うゆえのミスも起こる。バイトをはじめて1年が経ったころ、ハンディに表示されたある漫画本が、指定された棚で見つからなかった。あるはずの位置にないのだ。どう探してもないので、社員に声をかける。
「うーん。そんなわけないんだけどなぁ。ちゃんと探した?」
「はい、近くもしっかり調べたんですけど」
「じゃあそれ飛ばして次に移って」
翌日の朝礼。リーダーは不機嫌の極みだった。
「昨日の発送で間違った商品が届いたと、お客さまからクレームが入りました。××さんのピッキングミスです」指摘された本人は顔を強張らせている。どうやら本を5冊注文した客のもとに、6冊届いてしまったらしい。その余計な1冊こそ、昨日オレが探しまくったものだった。
「××さん、何を考えてるんですか? 勤務時間後に改善ミーティングを行いますので忘れずに。他の人たちもこのようなことがないよう最善の注意を払ってください」
全員の前で怒られた男性はいまにも泣き出しそうだ。Z社倉庫ではハンディを通じて一人一人の仕事の履歴がわかるため、犯人探しは簡単で、全員の前で叱責される。ピッキングミスを犯した人間はその叱責に耐えられず辞めるか契約期間が終わったところでクビになるのもお決まりだ。なんだかんだで3年以上も続けているZ倉庫のバイトだが、とにかくバイトの業務管理に厳しい点こそが、一番キツイ部分だ。社員に作業履歴を逐一把握されてること、到底達成し得ない目標設定、達成できずに怒られること、しょっちゅう開かれるムダな改善ミーティング。さらにこのころ、倉庫の天井には何個もの監視カメラが設置された。本物かどうか知らないが、これがいったい何を意味するのか、社員からの説明はない。監視、管理。一日中歩き回るために足の疲れが取れることはないのだが、それ以上に精神的な疲れが蓄積していく毎日だ。そんな徹底管理下に置かれた倉庫で思わぬ事件が起きたことが、朝のミーティングで全員に知らされた。
「昨日、男子トイレの個室で、開封されたアダルトグッズが見つかりました。商品に手をつけるのは窃盗です。これから調査に入りますが、心当たりのある人間は正直に社員に伝えてきてください」
同僚から漏れ聞いた詳細によればどうやら使用済みの『テンガ』がバイト専用トイレに残されていたそうだ。おそらくピッキング担当の誰かの仕業だろうな。アダルトグッズはCゾーン(家電や雑貨の保管庫)にあるから、そこで作業をしてるヤツか。スピードを要求されるわりにはトイレは自由に行けるため、ついつい息抜きにテンガオナニーでもしちゃったんだろうか。大胆なヤツだ。こういったコトを聞いたのは初めてではなかった。過去にも漫画本をこっそりトイレに持ち込んで、その現場を社員に見つかったヤツがいた。商品を外に持ち出すのは荷物チェックのおかげで不可能なので、悪事はトイレで行われるのだ。その多くは犯人がわからないままウヤムヤになって終わるのだが、今回ばかりはそうもいかない。監視カメラの存在があるからだ。また翌日、朝礼でその顛末が報告された。
「えー、おとといの盗難事件についてですが、ピッキングチームの△△さんによるものだと判明しました。カメラも設置されましたので、みなさんも間違った行動を起こさないよう注意してください」名前まで出すことないよなぁ。「オマエらも何かしたらこうなるんだぞ」ってことかい。トイレと言えば、ちょっとした楽しみがある。Z倉庫の仕事でやりがいを感じることがあるとすれば唯一この部分のみだ。最初の遭遇からして驚いた。一時期夜勤に入っていたころ、トイレに入ろうとしたら社員と女性アルバイトの子が男子個室に入っていくのが見えた。なんだなんだ。音をたてないようソロリと近づいたら、すぐに音が聞こえてきた。「ズズズ、ジュル、ジュポ」
…え、しゃぶってる? マジかよ。そのまま隣の個室に入ってみた。フェラ音が止む気配はない。その女性が梱包の担当であることは知っていた。さしてカワイくもないけどせっかくなのでその音でオナニーさせてもらい、2人が出ていったのを確認してから現場に戻った。
この日を境にトイレの方向を注視するようにしたところ、月に一度のペースで例の2人がトイレに入っていくことがわかった。単に2人は付き合っていてそういうプレーに興じているのだと思っていた。だけど同僚によれば、彼女は長年Z倉庫に居座る有名な女なのだとか。
「社員の機嫌をとるためにやってるんだってよ。だからあの女は急げとか効率とか言
われないらしいよ」なんだそりゃ。女っていいなぁ。ちなみにそれからまもなくして、ご機嫌とりフェラ女がもう一人現れた。不思議な職場だ。昨年、Zに嫌気をさしたオレは退職した。4年も続けたというのに、いつまで経ってもスピードアップ、改善ばかりでほとほと疲れてしまったのだ。Zはいまでも成長を続けている。その影にオレたちみたいなロボットがいることを、たまには思い出してほしい。