会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

焼き鳥屋をすすめる韓流イタコ

映画、ドラマ、アイドルなど、あらゆるジャンルを韓流ブームが席巻して久しくなりますが、この度ついにイタコ業界にまでその波が押し寄せてきたとの情報が飛び込んできました。果たして本当にそんなものは存在するのだろうかと震える手でググってみると、確かに新宿のはずれにそのような店が一軒あるようです。早速そこにテルしてみると「お電話、ありがとう、ございました」と少々訛った女の声が聞こえてきました。本日予約したい旨を伝えると、「今日は、いつでも、大丈夫。30分5千円、60分1万円、どっちにする、オススメは60分」と飛田新地のやり手婆みたいなことを言ってきましたが、とりあえず30分で予約を取りました。店は某JR駅から徒歩3分と近く、平屋の一軒家。外壁には大きく「悩み解決」とあり「夢見が悪い」「自分をコントロールできな
い」などネガティブな文字が並んでいます。到着が15分ほど早くなり店先で待っていると、ドアの隙間からおばさんが顔だけを出していたので映画「シャイニング」かと思って悲鳴を上げそうになったのですが、手招きしてるので恐る恐るドアに近づきました。
 靴を脱ぎ室内に入ると15 畳ほどのやや広いリビングにゴザが敷いてあり、先ほどのおばさん、そしておじさん、若い男女の4人が日本語半分、韓国語半分で丁々発止で会話していました。しばらく棒立ちで待ってみたのですが議論が白熱しているのか、完全に放置された状態になり、しょうがないから手前のソファに腰を下ろすと目の前にメニュー表があり「飲み物全品500円」と記されていました。これを注文するまで議論が終わらないのではと不安に思っていたらおばさんがこっちを見て「予約した人、こっち来い」と奥のパーテーションで区切られたスペースに案内してくれました。席に着くなり「30分で5千円ね。先にお願いね」とデリヘル嬢の如く言われたので1万円札を差し出
すと、おばさんは横にいた若い男に向かって「おい! コンビニ行って両替してこい! チロルチョコでも買えば崩せるから!」と荒荒しい両替技法を披露していました。まずは名前、生年月日をメモ用紙に記入するように言われ、その記入したメモ用紙と年表をじっくりと見比べながら「はっはーん。アンタ、午年だね。ズバリ、午年でしょ?」とまるで難問カルトクイズかのように言われたので面を食らってしまい、思わず「お見事、正解です」と言ってしまいました。次におばさんはこちらの顔を至近距離でジッと見つめ「わかったぞ」と言うとメモ用紙に大きく「火」という字を一文字書きました。そして「アンタからは〝火〞を感じる。火を使った職業をやりなさい」と告げられました。あまりにも唐突な職業斡旋だったので驚いて何も言えずにいると「特に焼き鳥屋が
良い。うん、焼き鳥屋になりなさい」とさらに具体的な商売にまで言及してきました。出会ってから10分足らずの人間に「焼き鳥屋やりなさい」と言われたのは生まれて初めてだったのでかなり動揺しました。さらに「今どき月に20万、25万稼いでもしょうがないでしょ。焼き鳥やって1日に3万稼ぐ。3万×50で月に150万の稼ぎになるでしょ」とよく分からないことを言ってきたので「月で計算するなら×50じゃなくて×30では?」と指摘すると、おばさんの顔がみるみると曇り、次の瞬間に「日に3万ではなく、日に5万じゃ。5万×30で月150万じゃ。おぬしにはそれだけのポテンシャルが秘められておる」と突然喋り方が変貌しました。具合でも悪くなったのかと思い「大丈夫ですか?」と訊ねると「わしはお前の先祖じゃ」と仰せられました。どうやら自分が計算を間違えたタイミングで先祖を降臨させたようです。
「先祖って、お名前はなんですか?」「4代前の先祖じゃ」「4代前ってかなり大昔ですが、ポテンシャルって言葉は使っても大丈夫なんですか?」
「現代の言葉を借りてお前に説明しておるだけじゃ」
おばさんは半分白目になっていたのでかなり入り込んでいるのは間違いありません。もし先祖が降臨しているなら聞きたいことは山ほどあったのですが何を聞いても「火を司り、鳥を焼くのだ」と終始、話が焼き鳥屋の方向に引きずり戻されます。その後「自分の現在住んでいる場所から北西の位置に店を出した方が良い」とか「ある程度は集客が見込める繁華街が良い」とか「最初は居抜きで店を借りろ」とか具体的にアドバイスしてきて最終的には「池袋で本格派の炭火焼き鳥屋を経営すれば3年後には社長になれる」とのことで、イタコというより、経営アドバイザーの様相を呈していました。粘り強く最後まで先祖のキャラは保っていましたが、ちょうどタイマーのアラームがピピピとなった途端に「お時間きちゃったみたいなんで」とおばさんはニコニコ顔で両手を合わせ舌をペロリと出して素に戻っていました。