会話のタネ!雑学トリビア

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宝くじ高額当選者の悲劇のその後

サマージャンボドリームジャンボ、年末ジャンボを夢見て宝クジを購入した人間は、過去最高の7千150万人を記録した。対し、1千万円以上の高額当選は、年間約3千本。単純計算、1日約8名もの幸福者が大金を手にしていることになる。
我々一般人にはまるでピンとこない話だ。宝くじなんて、1万の当選者が親戚に1人い
るぐらいがせいぜいだろう。だからこそ、ソノ話を聞かされたとき、オレは耳を疑うしかなかった。
「ウチに、年末ジャンボで1億当てたオッサンがおるんよ。今はもう、自殺寸前のピーピーやけどな」
1億もの超大金を当てといて、ヤミ金で自殺寸前?ありえない。仮に住宅口ーンを返しても、数千万の金は残るはず。小出しに暮らせば、悠々自適の生活ではないか。
ヤミ金に世話になるやつは、み〜んな頭のネジが1本イカれとるんや」
「はあ…」
「会うてみるか?ソイツに」
師走の大阪ミナミの居酒屋。かくして、オレは生まれて初めて、宝くじの高額当選者と
対面することとなった。
「私ねえ、私、あんなもんに当たらんかつたらよかったと、お、思っとるんです…」
西田春夫氏(仮名、)は灰皿に視線を落としながら口を開いた。毛玉のセーターに汗臭いブルゾン。ボロポロの左手薬指に光る《マリッジリング》が、妙な違和感を醸し出している。
「かなりツライ経験をされたと伺ってます」
「えぇまあ…、人生ですから。。。。。。」
5年ぶりに口にするという久保田干寿を味わいながら、西田は宝くじ当選後の、呪われた半生を語り始めた。数年前の元旦のことですわ。当時、私は大阪の事務用品問屋で営業課長をしてましてね。
年収が800万近くあって、妻と子供2人。普通に暮らしていけました。酒もタバコもようしませんので、唯一の趣味いうたら、やっぱり宝くじになるんかな。年末ジャンボとサマージャンボで年に2万円ぐらい。ま、平凡を絵に描いたような男ですわ。当時は、妻と冗談ばかり言うてました。
「1億円当たったら、ダイヤ買うたるわ〜。この家もホンマにオレのもんになるで〜」
「そんなん、絶対当たらんのに。また9千円も無駄遣いして」
今となれば、こういう獲らぬ狸が一番よかったんですわ。
その日は、朝からダラダラおせちを頬張り、TVで漫才を眺めとったんですけど、新聞をチラシと見たら、数字が目に入りましてな。いつもは窓口の機械にかけてもうてるんです。それが、そんときはなんやムズムズして、慌てて財布から紙袋を取りだしまして。
第296回全国自治宝くじ年末ジャンボ当せん数字
▼1等(6000万円)組512○○○番▼1等前後賞(2000万円)
信じられないことに当たってました。しかも前後賞併せて1億円ですわ。もう声なんか出しまへん。下半身はクラゲやし、心臓バクバクですわ。たぶん、1時間以上座り込んだままと違いますか。
「おとーさん、どないしたん?」
子供が背中に飛び乗ってきて、ようやく我に返りました。で、震えるように叫んだんです。
「オレ、当選したで」
カミさん呼んで、その肩必死につかんで、もう一度大声で叫んだ。
「宝クジに当たったんや!」
「はあ?また冗談言うて」
「ほんまやって。これ見てみい」
何べんも番号見直しましてね。2人で涙ながらに抱きおうたなあ。
「よかったなぁ〜!私ら苦労したもんなぁ〜!神様は見ててくれたんやなあ〜!」
それから払い戻しが始まる6日間は、寝ずの番でクジを見とりました。正直、生きた心地のしない正月でした。年明けの仕事始めは、もちろん休みました。いの一番にみずほ銀行の大阪支店へ向かったんです。周りに聞こえたらアカンから、窓口にヒソヒソと伝え、そのまま応接室に案内されて。ソファに座っていると、宝くじ部の担当者、副支店長が挨拶にやってきた。
「確かに当選されてますね、おめでとうございます。では、当選券と売り場の照合をいたしますので、預り証をお渡しします。2週間お待ちください」
その場でもらえる思ててんけど、薄っぺらな紙切れ1枚を渡されただけですわ。しかも、必要なもんと言えば、免許と印鑑だけでしよ。コイッらネコババする気ちやうか、本気で疑うてました。そしたら、担当者が面白いことを言いよる。
「受け渡しの当日は、当選金1億円をご覧になられますか?預金される場合でも記念に見ることができます」
「ほな、お願いします」
2週間後にまた大阪支店に出向きましてね。当日は、担当者、支店長、警備員の足元に、ビニール袋の1千万束が積まれとった。そら、震えましたで。かみさんなんか、記念にってカメラを持ってきたけど、シャッター押すこともできひんかった。1億円のうち5千万をその場で預け、残りの2千万がローンの返済、3千万は地元の地銀に振り替えです。あとは福袋3つを粗品としてもらって、最後に《高額当選証明書》いうのを渡されました。当選後に高級車や家を買うと、税務署が来るらしいんですわ。宝クジは非課税やから、その証明書です。当分は、目立たんように暮らそうと思うてました。お金
に余裕が出ると、人間変わります。上司や得意先に怒られても、全然平気になった。
もちろん、伝える人間にはスジ通さなアカン。で、母と4人の兄弟家族と一緒に出かけた旅行で発表したんです。
「え〜、実はこの間の年末ジャンボで1億円当たりました」
口がポカーンでした。心臓の悪い母親は、ほんまに死にそうになってね。けど、ボクが冗談言えるような人間やないことは、みんなよう知ってます。
「春夫、やったなぁほんまにおめでとう」
兄弟連中はすぐビール注ぎにきました。いやぁ、嬉しかった。今からしたら、アホとしか言いようがないんですけど、そんときはみんな単純に祝福してくれてんねやと思うてたんです。生活がおかしなってきたんは、旅行終わって1カ月もたたんうちですわ。他でもありません。信頼しとった兄弟が揃って金を無心しに来るようになったんです。
中でもヒドかつたのは1番上の兄です。建築屋でバブルの夢ばかり見てたから、金がなんぼあっても足らへん。100万、200万と繰り返し、計1千万ぐらいでさすがに断りましたよ。そしたら、
「1億もあって、何ヌカす!ウチはババァンの面倒看とんのやど!それぐらい兄弟にし
て当たり前やろ!」
もう、ほんまに泣きたい思いでした。他の兄弟にもなんやかんやで500万ぐらい持
ってかれたし。追い討ちをかけたのが、妻方の親類ですわ。
「ほら、この本見て。お金というものはいらないのよれ。捨ててしまうのが一番よ」
他にも生命保険の外交員や、顔も知らない親類が、熊本から来よりましてね。誰や尋ね
たら、嫁さんの妹のダンナの弟の妻やって。なんでも、息子さんが『ハンチントン舞踏病』いう難病にかかったから、少し援助してもらえんか、と。いやもう冗談やない。自宅の車は毎晩のように傷つけられるし、孤児院とか災害義援金の寄付団体も頻繁に自宅へ来るようになった。たぶん近所の住人か親戚の誰かが、噂を流したんでしょう。気付くのが遅すぎました。これは家族にも子供にも言うたらアカンことやったんや、て。
でも、どうしても引っ越す気だけにはなれんかつた。まだ6千万の金が残っとったし、
違う土地でなんぼでもヤリ直せたのに、サラリーマンの悲しき習性とでも言うんやろか。せっかく手に入れたマイホームを手放せない。そう思ったら意地でも家を守りたくなってもうて。当選から半年後ぐらいのことですわ。地銀の支店長が自宅にやってきたんです。高級スーツのインテリ風で、仕事のできそうな男でね。それが菓子折り片手に、「ウチの投資信託に預けてくれ」といきなりの土下座ですわ。こっちの3千万は手付かずでしたから。
でも、当時の私は、誰も信じられへんし、本物のお金持ちやったら、他に仰山おるやないですか。で、即座に断ったんやけど、これがしつこいしつこい。銀行で金を下ろすたびに係員がスッ飛んできて、応接室まで連れてかれるんやわ。さすがに、コッチもキレてもうてね。あるときフロアで思いっきり支店長に怒鴫ったんです。
「人の米びつ覗くような真似しやがって、いい加減にせい、誰がお前のところなんかで、投資なんかするか!」
それからですわ。信託会社や資産運用会社を名乗る、怪しげな電話が1日、10本以上かかってきたんは。たぶん、アイッの仕業やないか思うとります。でもね、やっぱりボクも舞い上がっとった思いますわ。投資なんかこれっぼっちも興味なかったのに、毎日電話が鳴るようになって、少しずつ意識し始めた。で、ついに出してはいけないモノに手を出してもた。先物ですわ。いや、最初は断るつもりやったんです。あんまりしっこ
う勧誘してくるもんやから、これは直接喫茶店なりで会って、話した方がええかなと。
まったく甘かったです。その営業の男、ボクがその気のないこと伝えた途端、烈火のごとく怒り出してねえ。
「フザけないでください!資産運用に興味があると聞いたから、色々と資料を揃えてきたのに。西田さん、何考えてんですか。このまま契約もせんと会社に戻ったら、私、解雇でつせ」
大声出されて、ワケわからんようになりました。
「この資料を用意するのに、うちの調査部がどれだけ経費をかけたか考えたことがありますか?こうなったら顧問弁護士を立て、損害賠償請求の裁判を起こします」
「そ、そんなあ…」
「狙い目はシカゴ市場のコーンです、とうもろこしね。10万円からはじめられる投資です。必ず儲かりますよ!」
気付いたら、銀行に走って預り証と引き換えに金を渡してました。まあ、捨てたと思ってあきらめましたよ。いい勉強になった。世の中には悪いやつもおるってね。それがね、1月後には40万になったんです。で、次は砂糖に100万突っ込んで、これまた180万ぐらいになった。アホらしゅうて、会社を辞めました。突然1億もの大金を手にした人間に、浮かれるな、という方が無理な話なのかもしれない。が、ここまで話を聞いてると、西田氏の元来の人の良さや脇の甘さが、周囲に付け込ませる大きな要因となってるとしか思えない。結局、氏が先物に注ぎ込んだ額はトータル2千万にも及んだ。ところで、こうした夫の暴走を妻はどう見ていたのか。家族として制止しなかったのか。不幸なことに、妻もまた金の魔力に狂わされていた。なんと口座から1千万を勝手に引き下ろし、実の父親へ渡していたのだ。株の穴埋めに使っとったんです。さすがの私も、この裏切り行為には腹が立ちましてね。
「素人が株なんかに手え出して、ただで済むわけないやろが!」
「ええやないの!アンタの兄弟も助けてやったんやろ?」
「うっさいわ、ぼけ!」
で、まあ、色々すったもんだで離婚ですわ。子供と一緒に出ていってもうた。その分、私は事業に打ち込もうと考えましてね。先物のほかに『ニッソーネット(仮名)』いうポケットベルの会社に投資したんです。
スーツ姿のええ女に、説明会へ誘われて、「ポケベルが時代の主力になる」とか言われ
てソノ気になったんです。結局、そこでも200万イカれてもうたんですけど。
もうこうなるとやることなすこと、すべてが裏目でしてね。例の先物の正体も、豊田商事の残党やった。気づいたころには、全国に被害者組織の会までできましたわ。泣きたくなるぐらいマヌケです。女房に泣きついて謝ろうか。子供と一緒なら、またイチからやり直せる。そうも考えました。けど、タイミング悪く嫁さんの親父さんが、財産をとりにきたんです。家を売って養育費よこせ、って。こうなったら、財産もクソもありません。結局、私の手元に残ったんは600万だけですわ。
それでも真っ当な社会生活に戻ればよかったんやけど、ストレスから苦手な酒に逃げてもうて。で、行き着いた天国がフイリピンパブでした。ほら、向こうの娘って尽くしてくれるし、優しいやないですか。あっという間に400万ぐらい使ったんかなぁ。借金生活に突入したのはその直後からで、大手から街金、闇金へとたらい回しです。けど、後悔はしてません。RISAいう娘とはホンマに愛し合うて結婚の約束もした。ほら、この指輪ええでしよ。指が細なってゴソゴソやけど、彼女がマニラから大阪に帰ってきたら、一緒に暮らすつもりです。すっからかんになって、もうこれ以上、下にいくこともないやろと思うてたところに、またドエライことが起きましてね。誘拐に遭うたんです。
夜中の1時頃、飲み屋から帰ってきたら、突然、誰ぞに軽のバンにひきずりこまれて。頭に黒いビニールを2枚被され、目の前真っ暗ですわ。いうても途中から気絶してもうて、どこに連れられてたんかもようわからん。恐いし、小便はしたいし、腹は減るし。鼻水と涙垂れ流しでいたら、犯人が言いよる。
「オッサン、金、出さんかい!ようけゼニ持つとるやろが!自分の女房に電話せい」
「もう、とっくに別れてておらへん!金も1銭もないわ殺すんやったら殺せ。」
失うもんも何もない。ここで死んでも、誰も悲しまへん。半分、本気で叫びました。そしたら、遠くから話し声が聞こえてくるんです。
「おまえ、オッサン金持ってへんやないか。何も知らんのか」
「いや、聞いてなかったわ」
「なんや、ソレー」
咽嵯にピンと来ました。上の兄貴の息子ですわ。親父が建築屋やからヤンチャ坊でね。そこら中ほっついとって、私が離婚したこともたぶん知らん。
で、その後、解放された足で怒鳴り込んだんです。「兄貴んとこの放蕩息子はどこいった。最近見てないけど、ロクでもないことしとるんちやうか!」
「お前、突然、何言うてるんや。アイッは今、全国の小学校の校門前で手品のオモチャ
売り歩いとるで」
「そりゃ、どんな仕事じゃ。オレはな、おまえの息子に位致されたんやで!」
「春夫、お前金なくなったってホンマか?それで頭おかしうなったんちやうか?」
なんぼ問いつめてもしらばつくれとるから、警察に行きました。けど、「民事には介入
できひん」と。もしかしたら、犯人は違ったんかもしれません。