会話のタネ!雑学トリビア

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安すぎるふぐ料理屋さん

これからの寒くなる時期、ふぐ・スッポン鍋で一杯やりたいものです。しかし如何せん高級食材とされているそれらの料理は我々一般庶民にはなかなか手が出せるものではありません。ふぐを最後に口にしたのは6年前に大井競馬場万馬券を当てた時だったと記憶しています。そんな折、廃墟と思われていた古びた一軒家でふぐ・スッポン料理を激安で出している店が存在するという怪奇情報が有志から寄せられました。慌てて食べログで確認したところ客一人あたりが使った平均額がなんと千円〜2千円。サイゼリア、鳥貴族クラスです。早速その真意を探るべく現地へと足を延ばしました。
東京西部、某JR駅からバスに乗り込み10分ほど南に下ったところで下車。幹線道路の脇を歩き続けて一本小道へ入ると今にも消えるか消えないかぐらいの弱い灯りがぼんやりと点いた看板を発見することができました。赤提灯は激しく損傷しており、最近ハリケーンでも通ったのかと思わせるほどです。今にも落ちそうな暖簾も汚れのせいか店名を確認することができません。確かに普通に歩いていると廃墟だと思って素通りしてしまいがちでしょう。しかし店の引き戸を開けると予想に反して狭い店内のカウンターには客が既に4人ほど座っていました。「空いていますか?」とカウンターの奥のマスターに訊ねると、テレビの前の席に鎮座していた白髭をたくわえた仙人のような爺が「ここ座れよ」と言って隣の荷物をどけてくれました。礼を言ってそこに座ると仙人は
「未来を背負う若者に席を譲るのは当然。この前の国会前でも若者たちがどうのこうの」と語り出したので面倒くさそうな席に座ってしまったことを悟りました。
店内のあらゆるところに貼られているメニューを確認すると「ふぐ刺し350円」「ふぐ唐揚げ350円」と噂通りどれもオリジン弁当と互角の安さです。しかしその余りの安さに「ふぐが安くて嬉しい」という範囲を逸脱して「ふぐが安くて不安」という領域に達していました。よく見るとなぜか「焼きそば」とか「そうめん」「柿の種」「ゴーヤ天ぷら」というメニューもあり、かなり幅広いラインナップのようです。とりあえず瓶ビール、ふぐ刺し、ふぐ唐揚げを注文。ビールをちびちび飲みながら待っていると奥に座っていたニッカポッカを着た土方のオッサンがテレビのリモコンを手に持って「おい、そこに瓶ビール置いたらテレビのチャンネル変えられねーだろ」と強い口調で言ってきました。驚いて瓶ビールをどけるとオッサンは物凄い勢いでザッピングを始めて「行列ができる法律相談所」を真剣な眼差しで見入ってました。思っていたふぐ料理屋の雰囲気とは少し違うなと思いつつも、その20分後にようやくふぐ刺しと唐揚げが到着。一口食してみるとやはり味は他店よりも若干落ちるような気がしました。ふぐ刺しはゴムのようだし、唐揚げは油でギトギトでこの二つだけで胃がもたれたので胃薬のガスターテンを服用しました。しかしこの値段では文句も言えません。するとマスターが「これ書いていってね」と〝スッポンノート〞と記された謎のノートを渡してきました。中を見ると「美味しかったです、また来ます」という具合に来店した客がそこにメモを残しています。しょうがないので上に習ってそれを書くとマスターは「あれ、吉田さんはもう書きましたっけ?」とリモコンをザッピングしていた土方のオッサンに話し掛け、オッサンは「もういいよ、それ」と手で払いのけ「行列」に一点集中していました。マスターは客全員に対してノートは書いたのか順番に訊いて回り、結局全員に断られていました。その後マスターはノートを書いてくれた自分だけに特別サービスといった感じで「こんな有名人も来たことあるんだよ」と色んな方とのツーショットが載ったアルバムをこっそり見せてくれたのですが、ツーショットの相手がまったく誰だかわからず「ほえ〜」という感想しか口から出ませんでした。
一向に減らない目の前のふぐ刺しと唐揚げを完食するには酒の力が必要だと思い、2杯目にやたらと濃度の高いふぐ酒を飲み、3杯目はマスター推薦のスッポンの血のワイン割を注文。それがなぜかジョッキで出てきたのでどうしようかと思いながらも強引に流し込んでいると、先ほどのザッピング狂のオッサンが帰り支度を開始。その会計額に注目するとなんと900円。しかも驚いたのがザッピング狂の発した「今日この店初めてだったけど、なかなか良かったよ」という台詞です。人間って初めての店であんだけザッピングできるもんなんだと感心せざるを得ませんでした。ザッピング狂が帰宅したかと思うと今度はそれまで一言も発していなかった仙人が「俺はNHK見たかったんだ」と急に怒り出して店内はカオス状態へ。しょうがないので会計をお願いするとなんと1800円。その余りの安さに本来ふぐを食べられて嬉しいはずが、安いピンサロに行った後のような不安な気持ちで翌々日ぐらいまで過ごすことになったのでありました。