会話のタネ!雑学トリビア

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廃業寸前の昔よく通った銭湯に久しぶりに行ってみた

子供の頃、毎日夕方になると近所の銭湯が人で賑わってた記憶があります。背中に阿修羅の絵が描かれたおじさんがコーヒー牛乳を窃盗して通報されたり、
「陰部に熱湯を掛けると3倍になる」という噂を訊いた男子中学生が百度の熱湯で実践して白目になって倒れたりと様々な人間ドラマが展開され、今から考えると銭湯は良き社会勉強の場だったのかもしれません。近年では家庭風呂の普及もあり客足は遠のき、そんな時代の流れからか廃業に追い込まれる店舗が多く、全国で2万軒以上あった銭湯も今では5千前後となっているようです。
都内から電車で50分ほどの埼玉の長閑な住宅街に佇むとある銭湯も閑古鳥が鳴き、廃業の危機に面しているようです。JRの某駅から徒歩10分、煙突を目印にどうにか辿りついたのですが「××湯」といった暖簾も看板も一切出ておらず、一見するとただの平屋の民家にしか見えませんでした。開けっ放しの玄関にはぼんやりと蛍光灯が光っておりますが営業してるのかどうかハッキリしません。しょうがないから予めメモっておいた店の電話番号にダイヤルするとおじさんが出ました。「今日はやってますか」という問いに「やりますよ」と、まるで「お前が来るならこっちもやるよ」とも取れる返答。
とりあえず不安に駆られながらも玄関を一歩入ると、真正面に松竹錠の下駄箱がありました。下駄箱は半分以上が壊れており、客がいないためか靴が一足も仕舞われてない模様です。見渡すと左側には「男湯」、右側には「女湯」と書かれた札が貼ってあります。通常なら「女湯」という文字からは何かしらのワクワク感を感じるものですが、この銭湯の「女湯」という字面からはただならぬ哀愁が漂っており、ここまで覗く気にならない女湯もそうそうないなと思いました。男湯側から中に入ると一人のおじさんが椅子に深くふんぞり返ってサッカーなでしこJAPANの試合をお茶を飲みながら熱心に観戦
していました。一瞬風呂上りの客かと思ったのですが、その割には清潔感に欠けるなと思っているとおじさんはこちらに気付き「410円」と言い、手のひらを出してきたので番頭であることが確認できました。
脱衣所はガランと広く、夜の19時前だというのに客は一人もいません。鍵付きのロッカーらしき棚はありますが壊れた電話機や虫よけスプレー、ゴミ袋が詰め込まれて
おり現在は使用されていないようで、代わりに脱衣籠が4つほど無造作に置いてありました。壁には「貴重品の盗難には注意」というポスターが貼ってあるのですが、客が誰もいないのでこの脱衣籠でも十分なのかもしれません。真ん中には煙草の吸殻が何十本も刺さっている火鉢が一つ。柱には「昭和24年築」という字が彫られています。掃除をしていないのか、床全体がホコリっぽく天井は今にも剥がれ落ちそうでした。誰もいない静かな脱衣所で服を脱ぎながら何気なく庭の方に目をやると、5メートル先に隣の家の2階の窓がバッチリ見えることに気付きました。たまたま向こうの窓のカーテンは閉まっていたのですが、もし覗こうと思ったら簡単に覗けてしまう位置関係にあり、凄い信頼関係を築いてるんだなと感心しました。
親切心で劇的ビフォーアフターに電話しようかとも思いましたが、とりあえずタオルを巻いて風呂に入ることにしました。風呂の手前には洗面台が一つだけあり、使用されていないのかカビだらけ、そして中の風呂場のタイルもカビだらけでした。富士山の絵も写楽の絵も何もない殺風景な風呂場に、カランは全部で12個あるのですが、その内の2つは絶命していました。さらにシャワーにいたっては4つだけで、どれも違うメーカーの違う形をしたシャワー機が取り付けられているのが歳月を感じさせてくれます。
とりあえず軽く身体を流して湯船へ入ります。左は浅め、右は深めの2槽あるのですがどちらもほぼ同じ温度でおそらく38度ぐらいとかなりぬるめの仕様となっていました。首まで浸かりふと横を見ると塩素のせいか浴槽周りに白い斑点がいくつも付着していたので思わず「ひぃ」と声を上げその場で立ち上がってしまいました。お湯はほぼ透明でどういう効能があるのか気になりましたが、何も書いていないのでおそらく何も効能がないものと思われます。湯船から出て今度は身体と髪を洗うのですが、どうしても脱衣籠に置いてきた財布が気になってしまいます。なので結局10分置きに一度風呂から上がって財布の有無を確認してもう一度風呂に入るというのを3セットほど繰り返し、おじさんの方をふと見るとかなり険しい表情をしていました。女湯から女性の声がすることもなく、男湯に他の客が来るわけでもなく、これ以上なにも起こらないと判断し風呂から上がりました。100円を払いコーヒー牛乳を飲みながら「暖簾出てませんでしたけど何て名前の銭湯なんですか」とおじさんに訊ねるとネットで事前に調べた店名と異なった名前を告げられました。不思議に思い、そのことをさらに訊ねてみると溜め息をつきながら面倒くさそうに「どっちでもいい…」と、その質問に対して考えられる返答の中で最も投げやりな返答が得られました。相変わらず脱衣所はホコリっぽく、どうにも身体が綺麗になった気がしなかったのですが、「お先でした」と告げ店を出て、アメイジング・グレイスを口ずさみながら駅に向かいました。