会話のタネ!雑学トリビア

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東京拘置所の床屋

拘置所というのは公判中の未決囚や死刑囚が収容されるところだが、実際は刑が決まってもそのまま居残る受刑者がわずかにいる。彼らは厳正な審査によって選ばれた模範囚で、拘置所では炊事、衛生(メシの準備、掃除、洗濯など)、図書など、囚人の世話係的な仕事につくのが普通だ。刑務所より断然ユルい拘置所でのおつとめが、全受刑者のあこがれの的であるのは言うまでもない。 
実は俺もそんなラッキーな受刑者のひとりで、つい先日まで2年の刑期を東京拘置所
(東拘)で過ごした。そこで俺が与えられていた仕事は『床屋』だ。
拘置所では月2回、囚人にカットが認められている。髪型は坊主かスポーツ刈りのみ
(保釈が決まった者に限り、本人の希望どおりの髪型が可能)。俺のように理容免許を
持った受刑者たちが、看守の立ち会いのもと、専用の部屋で担当するのだ。2カ月に一度とはいえ、収容人数が3千人を超える東拘では、毎日30〜40人の髪を切らなければならない。中には誰もが知っている有名人も大勢いて、彼らとはほんの短い時間ながら会話をかわすことがしばしばあった。みな、シャバにいれば、おそらく死ぬまで一度もお目にかかれないような人物である。
ホリエモン
検察へ出頭後、一時、ホリエモンは東拘に収容されたのだが、到着するやいなやヤツ
は散髪を命じられたのである。例のモヒカン姿を見たお偉いさんが「国家権力をナメやがって」とキレまくったらしい。実際、ホリエモンの態度はふてぶてしく、散髪台にどっかり座っても、まるで近所の床屋に来たような気軽さで俺に話しかけてきた。
「ここって死刑囚がいるんでしょ。会ったことあんの?」
「坊主なんて15年振りくらいかな。ちゃんと刈ってよ」
どうだろう、このリラックスぶり。普通、刑務所へ行くとなると、ヤクザですら落ち込むものなのだが、やはり、かつて球団やラジオ局を買収しようとした男だけのことはある。妙に感心してしまった。
鈴木宗男
鈴木宗男も、収監前に一時東拘に入れられ、数人の看守に囲まれ、床屋部屋に現われた彼は終始、礼儀が正しかった。床屋の私にでさえ、「よろしくお願いします!」と頭を下げるのだから立派だ。ただ散髪中、頭皮が痛いのか、しきりに「あの、頭にデキモノできてないですか?」と聞いてくるのには内心爆笑してしまったが。カワイイ人だ。
●加藤智大
ご存じ、アキバ連続通り魔殺人事件の彼である。都合7回ほど散髪を担当したものの、残念ながら彼とは会話らしい会話をした記憶がない。いつも何かに怯えたようにオドオドして、俺が髪型をどうするか尋ねる時だけ、ようやく蚊の鳴くような声でつぶ
やくだけなのだ。「…スポーツ刈りで」一審で下った死刑判決を不服とし、現在、高裁に控訴中の加藤。あの死神のような暗い表情は、しでかした罪を悔いているというより、死の瀬戸際にある自分の境遇を恐れているように見えた。
坂口弘(元赤軍
冒頭でも触れたように、拘置所には未決囚の他に死刑囚も収容されている。東京拘置所にも何人かの死刑囚がいるが、特に印象深いのが元連合赤軍の坂口。理由は彼の奇行である。毎日のように自分の尿を紙コップに入れて飲んでいるらしく、こぼれたションベンが服に染みついてハンパなく臭いのだ。まるでホームレスのように。一度、不思議に思って尋ねたことがある。「なぜ尿を飲むんですか?」
ニカッと笑いながら、彼はおよそ死刑の確定した者とは思えない答えを口にした。
「健康にいいからに決まってんだろ」
押尾学
収容されていたころ、ヤツは頑として髪を切ろうとしなかった。散髪の有無は個人の自由なので別にそれはそれで構わないのだが、坊主やスポーツ刈りはヤツの美意識に反するものだったようだ。したがって、俺は床屋として押尾と接したことはない。兼任していた衛生夫としてヤツと面識を持った。つねにタメ口で、ときには面と向かって文句を
言われたことも。「おい、何だよこの洗剤、薄すぎんだろ!」