閑古鳥ながらも何故か生き残ってる店というのは、やはり立地条件が極端に良い場合がほとんどであります。駅前だったり、学生街だったり、住宅地だったりと、ラッキーな立地によってどうにか潰れずにギリギリで生かされているのです。しかし、それらの好条件をまったく満たしてないにも関わらず、自力で営業を続けている廃墟寸前のラーメン店が関東某所に存在しているという怪情報が有志から寄せられ、早速電車を乗り継ぎその真相を確かめに行ってきました。東京から鈍行で1時間30分。辺り一面が田んぼに包囲された某駅で下車したのは自分ひとり。手動改札を抜けると駅前に店などは一軒もなく、見たこともない飲料メーカーの自販機が一つだけ胸を張って佇んでいました。
左右を見てもやはり田んぼと民家があるだけなので、しょうがないからスマホの地図でラーメン店の位置を確認すると、ここから約1.6キロほど離れている様子。当然東京無線(タクシー)も見当たらないのですが、幸いにも踏切を越えて国道を直進するだけで目的地に到着するようなので思い切って徒歩で向かうことにしました。東京ドームほどの巨大パチンコ店がポツンと一つあるだけの長閑な国道をひたすら歩くこと20 分。田んぼの真ん中にボロボロになった赤提灯を発見することに成功しました。提灯には何やら文字が書いてあるようですが、お化け屋敷の入り口にあるような、完全に人を脅かす時に使う提灯と化していたので、何が書いてあるのかは不明です。店の脇には木材が高く積まれており、その横にはこの店のものと思しき仮設トイレが不気味に鎮座しています。店の前には軽トラと軽自動車。そして正面から見ると建物全体が田んぼ側にやや傾いており、今にも崩れそうなのです。何か一つでもバランスを失うとすべてが無にかえってしまうような、ジェンガのような建物でありました。これは世紀のスクープだと胸が高鳴り、田んぼのあぜ道から外観の写真を一心不乱に激写。周りを見渡すと店から半径100mには民家すらないという厳しい立地でありました。なぜここでラーメン店を始めたのか?よっぽど風水が良かったこと以外に考えられませんが、ボロボロの暖簾をくぐって中を覗くとガラス越しにニューヨークヤンキースの帽子をかぶったおっさんがこちらを睨み付けていました。一瞬帰ろうかと思いましたが、軽トラが一台停まっていることを考えればこのNYYのおっさんはただの客の可能性もあります。腹をくくりドアを開けてNYYに「こんちは!」と元気よく挨拶してみたのですが、やはり不機嫌なのか、無言。気まずい空気が流れたあと、NYYは「何で人んちの店を写真バチバチ撮ってんだ? どこだ?」と荒い口調で問うてきました。
「どこって?」とフランクに訊ね返すと「どこのカメラマンだって聞いてんだよ」とのこと。ただのラーメンブロガーだと説明しましたがイマイチ納得してもらえず「素人か?」と少し残念そうに首を捻りながらもエプロンを締めてくれました。とりあえずチャーシューメン、餃子、ビールを注文すると、「ウチはクルマで来た客には酒は出さないぞ?」と言うので駅から徒歩で来たことを説明すると、そんな客はよほど珍しかったのか目を丸くしつつも瓶ビールを出してくれました。しかしよく見ると瓶ビールと共
に出てきたコップには何故か水がたっぷりと注がれていたので、後ろの洗面台に捨てようとしたところ「おい! その水、高いんだから!」と再び声を荒げつつ、別のコップを渡してくれました。一連の流れと怒りの沸点のポイントがイマイチつかめないまま店内を見渡すと客席は8席ほどあり、手前のテーブルには私物が散乱し、壁には何故か防じんメガネがぶら下がっていました。それを撮ろうとしたその時、「だから!なんで撮るんだよ!」と三度目の雷を落とされてしまい、さらに
「そもそもアンタ、そんな小さなカメラで撮るってことはプロじゃないよな?プロはもっとカメラがデカいぞ?」
「だいぶ前にプロが来たんだよ、プロが。カメラかなりデカかったぞ?」
などととにかくプロカメラマンのデカいカメラには絶対の信頼を抱いているようで、これ以上は撮影不可能だと思い静かにラーメンをすすっていると「ラーメン撮らんのかい!」と、今度は若手芸人のノリツッコミのような温かい言葉をかけて頂き、急いでラーメンに向けてシャッターを切り続けました。会計を済ませ、店を出てあれは夢だったのかと振り返るとジェンガはさらに最終段階の一番盛り上がるシーンに迫っているように見えました。