会話のタネ!雑学トリビア

会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

ゲイやレズビアンに囲まれた謎のバー

日本最大の歓楽街・新宿にはヤクザ、キャバ嬢、ホスト、ホームレス、勧誘、ポン引きなどわけのわからない沢山の人種がひしめき合って生息しています。これだけの連中が一つの場所に集まったら普通は殺し合いが始まるはずですが、たいしたトラブルもなく今日に至っているのは新宿という街の中でしっかりとした棲み分けができているからでしょう。例えばホストやキャバ嬢なら歌舞伎町、ゲイやレズビアンたちなら2丁目といった具合に。以前2丁目のココイチで隣のテーブルの男2人組がお互いのスプーンを舐め合っているのを目撃したことがありますが、これも2丁目だからこそ許される行為であって他所なら投石されているに違いありません。2丁目には男性のみ入店可能なゲイ専用バーや女性のみ入店可能なレズビアン専用バーがいくつもあり、どこも週末になると大勢の常連たちが今宵の相手を求めています。男同士が手を繋いで歩いているなんてのは珍しくありませんし、ビルとビルの狭い隙間で男同士がパイルドライバーの体勢なってお互いの股間に顔を埋めていることすらありました。その異質な空間の中でもさらに異質な雰囲気を発しているバーが2丁目のド真ん中に存在します。バラック小屋のような古い外観で入り口には「御用の方はボタンを押してください」とだけ記されており、とてもバーのようには見えません。ボタンを押すと中から「は〜い。ど〜ぞ」という擦れた老婆の声がしたのでドアを開けてみると、そこは4畳ほどの狭いバーカウンターのみのスペース。座席数は4つですが、カウンターに新聞やノートが散乱しており実質2人分しかスペースはありません。カウンターの席に店主と思しき老婆が一人鎮座しており、身長140程度と小柄で歳はおそらく65過ぎ。髪型はブラウンのオカッパなのですが、異様なのはそれが明らかにカツラで、元巨人のマーク・クルーンの帽子の被り方と同じくちょっと斜めにずれています。しかも店に入っての第一声でいきなり「ちょっと頼みが一つある」と神妙な顔つきで言われました。金の相談かと思い身構えたら「店の掃除を手伝ってほしい」とのこと。食器の入ったビニール袋を棚の上に乗せるという作業を強いられてしまいました。お手伝いした後、アーリータイムズを注文すると「あいよー」と言いながら何故か店の外に出て行き、しばらくして今度はカウンターの中にあるドアから再登場するという引田天功ばりのマジックショーを見せてくれました。拍手しようとしたら「一度、表に出て別のドアから入らないとカウンターの中には行けないのよ」とのことでした。めちゃくちゃ薄い水割りロックのアーリータイムズを呑みながら「ちなみにこれ一杯いくらですか」と訊ねると老婆は「できれば呑み放題のセット料金でお願いしていいかしら…」と急に歯切れが悪くなりました。「一杯だけでいいのですが」と交渉しても「セット料金でしかやってなくて…」とのこと。話し合いの末、呑み放題・ツマミ付き4千円のセット料金で折り合いがつきました。老婆は何やら電子レンジで温め始めました。チンと音が鳴り、皿に乗せて出されたのはなんと串に刺さったカレーパン2つでした。バーに来て最初のツマミが串に刺さったカレーパン2つです。千原ジュニア木村祐一あたりならテレビで10回は使い回すような話です。目の前に70歳の老婆と串に刺さったカレーパンが並んだ状況の中、会話も音楽もなく、ついにはその沈黙に耐え切れず「常連の方とかいるんですか」と失礼なことを訊いたところ「いないね」とキッパリと否定。それがいけなかったのか「だいたい、この周りはホモの店ばっかりで気持ち悪いのよ」と急に周りの店を批判し始めました。
「向かいはレズの店で、隣もレズの店。その隣はホモ、その隣はレズ、いやちょっと待って、ホモだったかも」
半径50メートルにあるホモとレズの店を細かく解説してくれました。「ちなみにこのお店はレズなんですか?」と訊ねると「わたしゃもう現役じゃないんで…」と不敵な笑みを浮かべたので思わず、呑んだアーリータームズをすべてコップに戻しそうになりました。かつてはレズの店だったのでしょう。一つ目のカレーパンを半分近く流し込んだところで胃がそれ以上受け付けなくなったので「そろそろドロンします」と告げました。
 老婆は「あらま」と残念そうに、残ったカレーパンをラップに包んで「玉子焼き作ったから持って帰りなさいよ」と、明らかに家から持ってきたであろうパックに入った玉子焼き、さらには昆布の佃煮をラップに包んで強制的に渡してきました。
「これで夜食助かりました」と礼を言って店を出ると、斜め前のコインパーキングで角刈りの男性2人がなぜか泣きながら抱き合っていたのでそれを横目に「世界に一つだけの花」を口ずさみながら帰路に着きました。