若い連中の間に 「コム友」という言葉が流通している。PHS携帯電話のウィルコムで会話しあうだけの友達のことだ。なぜこんな関係が成り立つのか。ウィルコムユーザー同士なら、毎月の基本料金1450円で全国どこの誰にでも掛け放題だからだ。顔も知らぬ相手でも、タダならいくらでもしゃべりたくなるものなのだろう。メル友のおしゃべり版のようなものだ。他の携帯キャリアにも掛け放題サービスはあるが、時間帯などに制限がある。やはりいつでも誰とでも のウィルコムが使い勝手がいいのだ。
メル友がいつしか出会いに発展するように、このコム友もナンパに大いに使える。相手の探し方は単純だ。ウィルコムの電話番号に間違い電話のフリをして片っ端から掛けていくだけである。ウィルコムはエリアによって電話番号が指定されており、オレの住む関東エリアは070の次に5か6のつく番号しか存在しない。その先の番号を適当に作って掛けていけば、関東圏に住む女の子が簡単に見つかるのだ(男やおばちゃんが出たらガチャ切り)。
「もしもし、メールのケイコちゃん?」
「え? 違いますけど」
「あれ? ケイコちゃんでしょ?」
「いえ、違いますけど」
このとき、相手の反応をうかがいつつ「あれ、声が似てるんだけど」などととぼけな
がら、なるべく多く会話するよう努力する。相手が少しでも会話に乗ってきたら最初の目標は達成だ。「間違ってごめんね」と謝り、適当なところで電話を切ればいい。何度も同じことを繰り返し、反応の悪くなかった相手だけをリストアップしておく。率で言えばおよそ20人に1人がリスト入りする。そして夜中のいかにもヒマな時間帯に、リストの子たちに電話をかける。
「もしもし、昼間間違って電話したんだけど覚えてる? すげーノリが良かったからまた電話しちゃったんだけど、ちょっと話さない? いま忙しい?」
ヒマな子なら乗ってくるし、ダメだと言われたらあきらめて次の番号へゴーだ。
「えー、まあヒマだけど」
「どこ住んでるの?」
「え、神奈川だけど」「そうなんだ、オレ都内なんだけど、いま何してんの?」
「えー、テレビ観てた」
こんな感じで会話がスタートするから面白い。いまの若い子は警戒心が薄い、という
か電話ぐらいなら別に危害はないしってことだろう。もっと言えば、元々ウィル
コムは、2台目のサブ電話として活用している子が多いので、もし何かあっても解約しちゃえばいいやぐらいに思ってるのかもしれない。 軽いノリで何度か電話する間柄=コム友になってしまえば、後は会うだけだ。半月ほど前に出会った20才の大学生、М美は、偶然にも自分と同じ町内に住んでいたので、急速に距離が縮まったケースだ。
「わたしのまわりでも間違い電話がきっかけでリア友になった子がいるけど、本当にこんな偶然ってあるんだね」
「ホント、オレもビックリだよ」
これがテレクラや出会い系サイトなら、カラダ目的の怪しい男が大勢いる場所というイメージが強くて警戒されてしまうが、間違い電話から始まったコム友の場合、日常に
転がる偶然の出会いだと思ってくれる。ある日、突然起こった運命的な出会い、女の子は誰でもそういうシチュエーションに弱いものだ。あらかじめ電話の段階で恋愛相談に乗ってやり、恋人の有無や貞操観念などをチェックしつつ下ネタも織りまぜていけば、後々の展開は有利に運ぶ。
「M美は浮気したことあるの?」
「浮気はないかなー。彼氏いないときは遊んじゃうけど、それは関係ないでしょ?」
「なんだ、結構軽いんじゃないの?」
「そんなことないって」
M美に限らず、間違い電話に乗ってくる女の子たちは皆、基本的にノリが軽く、尻も軽い場合が多い。警戒心も低いだけに、タイミングを見て「今度ヒマなら遊びに行こうよ」とダイレクトに誘えば、対面はそれほど難しいことではない。М美は対面したその日のうちに、間違い電話から始まったコム友(オレ)の部屋に遊びに来てくれた。仮に警戒心の強いタイプでも、「じゃ、もう少しオレのこと信用してくれたらね」と、いったん引いてコム友として繋げておけば、いずれチャンスはやってくるはずだ。いくら誘ってもダメなら次の番号に掛けていけばいい。その子のほかにもまだ何千人ものウィルコムユーザーが待っているのだから。