最近の騙しのペンキ詐欺だ。塩害の多い地域では古い建物も多いため、日中、車で街中を流していると、ペンキ屋が民家の壁を塗り直しているところに頻繁に遭遇する。外に足場を組んでいるので、遠くからでも一目で分かるのだ。ペンキ詐欺は、まずそういう家にどんな人間が住んでいるのか推理するところから始まる。絶対条件は、家主が老夫婦であること。庭先や玄関周り老などを観察すれば、家主が高齢かどうかは雰囲気でわかるものだ。もう一つの重要チェックポイントは、いま目の前で壁のペンキを塗っている施工業者の社名だ。これは停まっているワンボックスやトラックの車体を見ればわかる。たいてい「◯◯塗装」などと入っている。チェックが済めば、ごくありふれた作業服姿で、堂々と玄関に進んでいく。べつに○○塗装の連中と同じである必要はなく、外の作業員に見られても「お疲れさまですー」と他業者のフリをして普通に挨拶しておくだけだ。しかし玄関に入れば、もちろん外の連中の仲間になりきる。
「どうもー。◯◯塗装です」
「はーい、ごくろうさまです」
家人が出てきたところで、申し訳なさそうな顔で説明をはじめる。
「ああ、おばあちゃん。うるさくしてゴメンね。あの、申し訳ないんだけども、料金の
見積もりを間違ってたんよ」
どんな施工業者であれ、必ず事前に見積もりはとっている。その金額が、塗料の間違いで4万円ほど高かったみたいだと謝るのだ。
「手付け金もらいすぎてるから、返しますね」
「はいはい、わざわざどうも」
「じゃあちょっと見積書を見せてもらえる?」
取り過ぎたお金を返すと言ってるのだから、警戒心など抱きようもない。仮に、見せてもらった見積書に、工事代金の総額35万円、手付金10万円が支払い済みとあったとする。つまりおばあちゃんは残り25万円を払う必要があったわけだ。そこをミスがあったので4万円引きますと詫び、さらに値引きを伝える。
「おばあちゃんね、金額を間違ったなんて申し訳ないから、全部で10万円引かせてもらうよ。残りは15万ちょっきりでいいです」
「いいのかいね」
「もちろんですよ。ただね、うちの経理のシメが25日なもんで、残りの15万円を今日中に払ってもらいたいんだけども、どうだろうかね」
本来なら残金は施工終了時に払えばいいのだが、大幅に負けてやるから今払ってほしいという理屈だ。
「ああそんなにお金あったかねー。ちょっと見てくるから待っててもらえるかい」
15万ぐらいならあるかないかギリギリといったところか。もしなければ、とりあえず家
にあるだけでもいいからと数万を受け取り、領収書に手書きで○○塗装と書いて渡せば終了する。 この間、外にいる本物のペンキ職人は、玄関でなにがおこなわれているかまったく知らずにハケを握っているわけだ。
手元にまったく現金がない場合は、近くの銀行や郵便局に連れて行くこともある。見積もりの残金が100万近くあれば、なんとかゴッソリかっさらいたくなるものだ。
「じゃ、一緒に郵便局に行ってもいいですよ。会社の車だから汚いけども、乗ってください」ただし、この場合は近くにペンキ職人がいないことが前提になる。さすがに家の外に家主を連れ出すと、彼らも心配するからだ。こんな詐欺には本当に注意を!