会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

コーヒー豆整体店に入ってみた

閑古鳥が鳴いている店の特徴として外観が何屋なのかよくわからないというというものがあります。営業しているのかしてないのかわからないのはもちろん、一見なにを売ってる店なのかすらわからないことも多く、しかもそういう店に限ってドアを開けてみないと中が見えない造りになっているという有り様です。某商店街のこの店も看板に「コーヒー豆整体」と記されてるだけで、これだけでは中に入ったら何をされるのかわかったもんじゃありません。カーテンによって窓から中の様子を見ることはできませんが、定休日が水曜と記されているので木曜の本日は営業しているに違いないです。それにしても「コーヒー豆」と「整体」の文字が並んでいるのを生まれて初めて目撃しました。コーヒー屋が整体を始めたのか、整体屋がコーヒーを始めたのか、あるいはコーヒー豆を使って身体のつぼを突く、新手の整体なのかもしれません。
さっそく中に入ってみると電気はついてるものの誰の姿もありません。右手にカウンターがあり座席は4つ程度。コーヒーメーカーが設置されているのでどうやらここでコーヒーが飲めるようです。左には白いシーツのかかったベッドや、人体の骨格と筋肉を示した図解ポスターがあり、何となく整体屋テイストにはなっております。「すいません」と声を出してみても音沙汰がありません。奥のほうへ行くと物音が聞こえたので耳をすましたところ、さらに奥の部屋からブツブツと男女の話し声がしてきました。何を喋ってるのか、内容は聞き取れませんでしたがとにかく盛り上がっており、その話を中断させるのは本当に申し訳ない気持ちで一杯だったのですが「すいません」と今日一番の声を出すと、会話がピタリと止まりました。するとドアから白衣を着たおじさんとおばさんが顔を覗かせて、一瞬、沈黙があったあとに「こんにちは」と普通のトーンで言われました。こちらも「こんにちは」と返し、向こうの出方を伺っていたら「こんにちは」と何故かもう1回被せてきたので「表にコーヒー豆、整体って書いてあったんで…」と訊ねました。するとおじさんは「あっ!整体!大丈夫!」と言い、ヴァンダレイ・シウバのように自分の両手の指を組み合わせグネグネとほぐし始めました。「コーヒーは…」と訊いたのですが、聞こえなかったのか、おじさんとおばさんは顔を見合わせてどっちが整体やるのか相談をしているようです。
「これに着替えて」とジャスコで売ってるような紳士用のパジャマを渡されます。「整体60分あるんでトイレ行くなら今のうちですよ」とまるで生きてここから帰れないみたいな口調で言われたのでしょうがないからトイレに行くと今どき都会では珍しい、紐を引いて水を流す和式タイプだったのでますます不安になってきました。奥の部屋にはベッドが2つ並んでいました。仏頂面したおばさんがベッド脇に立っており、どうやら話し合いの結果、おばさんが整体を施すことになったようです。料金の3500円を払い、うつ伏せに寝ると「どこが凝ってますか」と訊かれたので「肩と腰」と答えると壁に貼られたポスターをチラチラ見ながら「肩と腰、肩と腰」と呟いていました。「痛かったら言ってね」と5分に一度確認されるなど当初は不安でしたが、整体自体は可もなく不可もなくといった感じで進行していきました。肩から腰あたりのつぼを突いてもらっている途中で「何か常服してる薬はあるでしょ」と訊かれました。
「身体全体からね、薬の匂いがするんですよ」 
この店に来る前に黒霧島という焼酎のお湯割りを2杯ほど呑んできたことを思い出しました。でも今さら焼酎の匂いだとは言えず、「便秘薬のコッコアポを服用しています」とかわけのわからないことを言ってしまったのですが、おばさんは「やっぱり。薬の匂いが身体全体から発生してる」と納得していました。整体が終わり再びカウンターのある部屋に行くと、おじさんとおばさんが並んで立っていました。
「コーヒー飲みたいんですが…」と訊ねてみると「今日はコーヒーやってないのよ〜」とあっさり却下されました。道具はあるんだからすぐ作れそうなので粘ってみたのですが、2人は乗り気じゃありません。挙句「駅前にサンマルクカフェがあったはず」とか言い出したので、話を切り上げ店をあとにしました。