会話のタネ!雑学トリビア

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リア充の間で静かなブームの読書会

最近、巷のリア充の間で静かなブームになっているのが「読書会」なるものである。
その名の通り読書好きが集い、小説について語ったりオススメ本を教え合ったりしながら交流を深める場だという。そんなもんネット上でやればいいじゃねーかと誰しもが思うところではあるが、それではただの読書オタク止まり。バーベキュー、ハロウィン、サッカー観戦、何かある度に常に仲間でいちいち集うからこそリア充リア充でいられるわけである。
ネットでググってみると無数の読書会が都内だけでも数多く行われているようだが、開催場所はなぜか「表参道の抹茶カフェ」だの「帝国ホテルのラウンジ」だの意識の高いところが多い。お前ら普段ガストのドリンクバーだけで2時間粘ってるじゃねーかと思わざるを得なかったが、日程の合いそうな読書会を一つチョイスした。指定の小説を開催日までに読んでその感想を語り合おうというもので、今回のお題は直木賞作品の朝井リョウ著「何者」とのこと。リア充と非リアの高校生活を描いた「桐島、部活やめるってよ」でお馴染みの小説家の作品である。早速ネットから主宰者にコンタクトを取ると当日の場所と時間が記されたメールが送られてきた。該当の小説はブックオフの百円コーナーで購入。同作者の別の小説の帯には「リア充裁判!」というわけのわかんない言葉が記されており俺はたまらなく不安になった。
作中では就活中の男女5人の大学生が織り成す人間関係が生々しく描かれており、2日間ほどで読めるボリュームだった。ただ本文中にやたらとツイッターフェイスブックなどSNSのやり取りが行われ、登場人物の気持ちや言いたいことがそのSNSを通して表現されており、その点が井伏鱒二の小説で育った俺には読みづらく、好みではなかった。
当日の日曜13時、開催場所に指定された都心の某N駅近くのスタバに向かった。募集要項には参加予定8名となっていたが現場に到着してみると俺を含めて6名だけだった。男5人女1人、年齢層は20代中盤から後半。俺ともう一人の男のみ30代後半だった。
6名が座れる大きな木目のテーブル席を主宰者の男が取っておいてくれたようで各自が珈琲やラテを手に持ち寄って、そのテーブルに集まった。なぜか内二人は座るなりノートパソコンをおもむろに開いたかと思うと、いきなり激しくタイピングを開始した。横から覗いてみるとoutlookを開いてメールを打っている。今このタイミングで送らなければいけないメールなんてあるのか?スマホじゃ駄目なんか?スマホの10倍以上大きいノーパソでメールする意味は? 
理解できないことだらけで思わずノーパソを借りてヤフー知恵袋で聞いてみようかと思った。まずは簡単な自己紹介となったが俺ともう一人の男以外は常連っぽく、いきなり話が脱線して「この前教えてくれたバルが美味しかった」という話題で盛り上がり始めた。それが終わるとようやく件の小説の話に移った。向かいに座っていた女が「すごいリアルだなって思った。私のことじゃんって」と語り出した。周りの男たちは「そう!」と共感。「とにかくリアルなんだよね」「スカイプの名前が光ってドキッとするあたりとか、リアル」と、とにかく「リアル」という言葉が丁々発止で交わされている。
「でも、友達の人脈を内心で馬鹿にするシーンとか、俺もさ、就活ん時さ」と今度は主宰者の男が小説の内容にかこつけて自分の就活の頃の人間関係を語り出した。すると斜め前の男がなんとノーパソを打ちながらも目は参加者の顔の方を向けて「オチがちょっと弱いと思わなかった?」と問いかけるウルトラCを繰り出した。それに対して「あのコ(作者)、いつもオチはあんな感じじゃん」と女が否定する。
確かに若手作家なのは間違いないが直木賞作家を捕まえて「あのコ」呼ばわりは如何なものか。大江健三郎とか伊集院静に対しても「あのコ」と呼びそうな勢いであった。トークはひたすら「リアル」と「自分語り」を交互に繰り返して「同棲したことあるかないか」の話になり、半同棲を含めて同棲経験がある4人が話の主導権を握って進行し始めると、同棲経験のない俺ともう一人の30代男は目の前のカプチーノを1ミリずつ大切に飲むという作業に勤しむより他なかった。俺にも当然小説の感想を求めてきたので「SNSでのやり取りのくだりが長くて、あと5年ぐらいしたらすごく古臭い小説になりそう」みたいなことを何気なく言ったら連中の顔つきが険しくなり、「いや、でもリアルだけどなぁ」と首を捻るばかりであった。 
小説の感想なんてせいぜい20分ほどで出尽くすものであって会合は案の定「あのバル今度行こうよ」とか「祐天寺のピザ屋も良いよね」など食い物屋の話に終始し、なんとなく男たちが紅一点の参加者の女をやんわり狙っていそうな様子も窺えた。これならよっぽどアマゾンのレビューで小説の感想を読んだ方が早いし情報量も多いと思うのだが彼らリア充にとってはそういう問題でもないのだろう。「休日にスタバに用事がある自分」という事実が大切なのである。女が岡本真夜に似て65点ぐらいの絶妙なブス加減だったことが俺にとっては一番のリアルだった。