お笑いマニアが一同に集まり、大喜利を延々とやっている場が東京豊島区に存在するという気になる怪情報が寄せられました。なので今回、高校の頃は学年一オモロイと言われ、進路相談ではたけし軍団も選択肢のひとつだった自分が、早速その内実を確かめるべく現場へ馳せ参じてきました。
某JR駅から徒歩15分、閑静な住宅街の中に佇むビルの一階にその店はありました。窓の上半分は擦り硝子で見えないのですが、下から覗くと靴が20足ほど散らばっているのが確認できます。恐る恐るドアを開けたところ10畳ほどの狭い部屋に約20人が円になって座り、主宰らしき男が〝お題〞を言うと、20人が次々と手を挙げ回答するという凄まじい光景が繰り広げられていました。正直無理だと思い、きびすを返して帰ろうかと思いましたが「初めての方ですか? とりあえず見学してみては」と微笑みながら声を掛けられたのでその場で見学することに。メンバーは20代の若者中心で男が9割。しかもちょうど行われていたのが「お題を先に予想して面白い回答をする」というハイレベルすぎてわけのわからないものでした。次々と挙手しては爆笑の連続。しかもほぼ全員常連らしく、仲も良さげなので人見知りの自分にとってはかなり窮地に追い込まれた気分です。
その時、入口のドアが開き、さらに別の客が来店しました。これ以上増えたらますます居場所がなくなると不安になり振り向くと、なんと50代半ばの白髪の紳士が立っていました。こんな年配の方まで大喜利をやるなんて…と驚きつつ、N村さんと名乗るその紳士と並んで見学することに。数分後に一旦休憩となり、半数近くの客が帰宅。まるでスポーツの後のように全員爽やかな笑顔で「あのボケ良かったよ」「あそこで天丼、よく思いついたね」など感想を言い合い、中でも一番多く笑いを取っていた赤シャツの男は「また物ボケの頃に来るわ!」と帰っていきました。
約8人ほどが残り、自分も800円を払い参加することにしましたが、唯一の仲間だと思っていたN村さんは引き続き見学とのこと。ボードとペンを渡されて円になり、8人での大喜利が開始されました。最初のお題は「こんな会社辞めてやる。どんな会社?」。他の常連たちが次々と回答していく中、それらに圧倒されて結局一つもボケられずにお題が終了。
これはマズい…と思っていると再び入口のドアが開き、若い男4人組が登場しました。訊けば某深夜ラジオの常連ハガキ職人たちとのこと。これはエライ場所に来てしまったと後悔していると、N村さんが「私も参加しようかな」。じっくりと見学して満を持しての参加だけに一同からどよめきが起こりました。N村さんは店に来た理由を訊ねられて「ぶらり途中下車で見た」と言ってましたが、それはフェイクで本当はどこかのベテラン構成作家がスカウトを兼ねて潜り込んできたのかもしれません。先のハガキ職人4人組にも緊張が走っていました。次のお題が出て「こんな温泉旅館は泊まりたくない」。やはり自分だけでなく全員がやや緊張気味なのかなかなか手が挙がらない中、自分の隣のN村さんが真っ先に挙手しました。全員が注目する中、N村さんから出た答えは「温泉に氷が入って冷たい!」 ストレートすぎるその回答に一瞬の静寂が流れた後、主宰が「なるほど〜!」と相槌を打ち、それに続くかのように他の客も「なるほどね」とか「それは確かに嫌だわ」など暖かいガヤを飛ばしておりました。そこで全員の肩の力が抜けたのか、手が続々と挙がりだし、場に穏やかな笑いが生まれだしました。N村さんはさらに挙手し、
「お湯が熱すぎる!」
また微妙な空気に包まれますが主宰が「なるほど〜」とフォロー。そして自分もついに勇気を出して震える手を挙げ「自分の部屋だけ仲居さんの腰が低すぎて不安」と回答し、一瞬の静寂のあと主宰から「なるほど〜!」をいただくことができました。一方4人のハガキ職人は回答数こそ多くはないものの、ひとひねりを効かせた、いかにも大喜利らしい回答でクスリとさせてくれましたが、如何せんN村さんのストレートパワーには勝てません。N村さんはその後も日ハム大谷ばりの剛速球のストレートを連発し、
「お題 お爺ちゃんのとんでもない遺言とは?」には
「借金!」
「お題 メルヘン王国の法律とは?」
には「自由」と、後半はバカリズム並の独断場となり、主宰同士が目配せをしたのち「一旦休憩入りましょう!」となりお開きに。自分としてはN村さんのおかげで「何を答えたっていいんだ」と思えていくつか回答もできて良かったのですが、ふとハガキ職人4人組を見ると大喜利の後とは思えない、険しい表情をしていました。