会話のタネ!雑学トリビア

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赤ん坊の洋風人形が並べられた不気味な蕎麦屋

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地方の幹線道路沿いに大型複合商業施設がオープンすることによって、近隣の商店街が潰れてしまうという悲惨な話をよく耳にします。確かに大型施設内に有名ブランドから人気の雑貨屋、食品売り場、挙句の果てには映画館も兼ね備えられてしまっては街の小さな商店街が太刀打ちできる術などないのかもしれません。
 そんな中、埼玉県南部の某市でも同じような現象が起こっているのか、とてつもなくデカい複合商業施設が建設されて以来、その周辺はペンペン草も生えないありさま。やっとできたと思ったらスシローやガストが関の山で、結局大型チェーン店に商店街が駆逐されているのが現状となっています。しかしそこに一軒、ペンペン草どころか建物全体にツタの木が茫茫と生い茂る、一見何を取り扱ってるのか分からない個人店舗がその大通り沿いに今もなお堂々と営業しているという有志からの怪情報を入手。早速電車を乗り継ぎ、東京から北へと向かいました。30分ほど電車に揺られて某駅で下車するとそこはもうかなり長閑な田舎町。行き交う人々の茶髪率が途端に上がり、ロータリー脇の駐輪場では高校生らしきヤンキーカップルが自転車の鍵にペンチで何かの作業に打ち込んでいました。
 地図で見ると某店はここからでもかなり遠いようでしょうがないから20分に一本の市営バスに乗り、15分ほど進むと某大型商業施設が見えてきたのでそこで下車。そこから幹線道路を歩くとようやく該当の店が見えてきました。ポツンと佇む木造二階建ての古
びた建物は歴史を感じさせ、確かに店全体を覆うように草木が異常なほど生い茂っており、ディズニーランドの人気アトラクション、ジャングルクルーズを彷彿とさせる外観でありました。木柱にはなぜかフェアリーという妖精の石碑が飾られており、縦長の看板には「蕎麦処」という文字が記してありました。店の入り口脇には白く大きな猫が一匹スヤスヤと眠っており、その神秘的な白い猫がこの空間の独特な雰囲気をさらに演出しています。窓から中を覗くと店内は結構な広さのようでパートらしき2人のオバサンの姿が確認できましたが、しかし何より気になったのは窓の縁に並んでいる無数の古い人形の後ろ姿でした。
 恐る恐る入店しようとするとこちらの存在に気付いたのか、パートのオバサンが入り口のドアを開けて出迎えてくれました。すると先ほどまで寝ていたはずの猫がいつの間にかドアの隙間からスルスルと店内へと入って行きます。「この! 出ていきなさい!」とオバサンは猫を叱り飛ばして外に追い出し「いらっしゃいませ」とこちらに微笑んでくれました。その後ドアが数センチ開いていたせいか、猫が再び入ってきたのですが同じように激しく叱り飛ばしていたのでどういう関係なんだろうと不思議に思いました。
 店内は外から見るより広く感じ、全部で軽く20席オーバー。ここまで客が埋まることはあるのかと疑問でしたが「どの席でもどうぞ」とオバサンが言うので座敷に上がって座ろうとするなんと表情のない古い洋風の人形が無数に並んでおり、こちらをじっと見つめています。洋風の人形と蕎麦屋、決して交わることのないその二つが揃うとここまで違和感があるのかと恐怖を感じずにはいられませんでした。蕎麦の食べ方にうるさかった池波正太郎が聞いたら激昂したかもしれません。
 しょうがないから反対の右手のテーブルに行くと、なんとそちらには洋服を着せられた古びたテディベアと赤ん坊の洋風人形が棚に15体ほどズラリと並べられており、レトロで貴重なものなのか、汚れもひどく、臭いも若干あり、その種類もバラバラ。真っ黒な顔をした赤ん坊の人形なども鎮座しています。辺りを見渡した結果、店内20席以上どの席に座っても人形と目が合う仕組みになっていると気付き、観念してせめて入り口に近い席へと思い着席し、名物だという三色蕎麦を震える声で注文しました。
 運ばれてきた蕎麦の味は緊張状態にあったためか、やけに薄味に感じましたが、天ぷらはさくっとして美味でありました。食事を終えようかというころ、常連らしき年配の女性が一人で入店してきました。ずっと独りで心細かったこともあり、思わず握手を求めそうになりましたが、年配女性がパートのオバサンに「あら?今日空いてるね」と一言。混んでいることもあるのかと軽い衝撃をうけつつ、会計を済ませ、ふと上を見上げるとアメリカの赤ん坊らしき絵画がこれまた無表情でこちらを見つめていたので、「ひぃ」と声を上げて後ろに仰け反りながら店をあとにしました。