会話のタネ!雑学トリビア

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極度に排他的な集落を歩く

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日本の田舎はしばしば閉鎖的だと言われる。わからん話ではない。住人全員が顔見知りだとか、独自の価値観やルールみたいなものが存在するだとか、そういった地域にふらりとよそ者がやって来れば、何かしら警戒されるであろうことは容易に想像できる。
 だが、世間には、そんな一般の田舎町とは比べものにならない、極度に排他的な集落もいくつか存在するらしい。そこでは、いずれも部外者に対して露骨な警戒を示し、ときに暴力的な言動で接触をはかってくるというのだ。面白いではないか。そんなサスペンス映画に登場するかのような集落が実在するだなんて。これらの土地に行けば、どんな歓迎が待っているのだろう。石がポンポン飛んできたりするのか?

情報提供者は以前、知人宅を訪れる際、偶然、この町に迷いこんだことがあるという人物だ。彼によれば、住人の1人に道を尋ねようとしたところ、いきなり、こんな罵声を浴びせられたらしい。
「なんでよそ者がウロウロしてんだ。アンタが歩いていい道はここらにゃひとつもねえ!」すさまじい縄張り意識という他ない。道を尋ねたくらいで、フツーここまで怒るかね?東京からレンタカーを飛ばして2時間、I町に到着した。そのまま車でぐるっと辺りを見回ってまず思ったのは、ごく普通の農村だなという感想だ。周囲を田畠に囲まれ、うっそうと生い茂る巨大な森林がところどころに点在し、その合間に古ぼけた民家群が寄り添うように建ち並んでいる。あまりにのどかな風景だ。
 ただひとつ、気になることが。I町の近辺にはいくつかの立派なゴルフ場や、宅地開発されたモダンな雰囲気の町も多くあり、I町だけがすっぽり時代から取り残されているかのような印象を受けるのだ。その意味では、外部から隔絶した土地であると言えるのかも。車を降りて実際に集落を歩いてみることにした。強烈な日差しの中、てくてくと散策するうち、前方から腰の曲がったバーサンがやってきた。軽く緊張が走る。いきなり「よそ者が〜」と暴言を吐かれたらどうしよう。
 彼女との距離が10メートルにまで縮まったとき、ふと目が合った。思わず声が出る。
「こんにちは。暑いですね」
 その途端、バーサンは一瞬、ギョッとした表情を見せ、次に「あら、あら」と困ったような声をだして脇道に逃げ込んでしまった。時折、こちらを振り返りながらひょこひょこと体を揺らして去っていく。なぜに慌てて逃げる?おれ何かやらかしたっけ?
それからしばらく、町の集会場の前を通りかかった折、また別のバーサンに遭遇した。格好からして農家の方に違いない。彼女はこちらの存在に気づくと、慌てたように視線をそらし、何事もなかったように歩いている。待っていても何かが起きる気配はないので、こちらから声をかけてみることに。
「こんにちは。この辺りの方ですか?」
「………」
「のどかでいいところですよね」
「………」
 一緒に歩きながら話しかけるも返事はない。そしてなぜかやけに険しい表情だ。怒
ってる?と、その時、彼女がピタリと足を止め、キッと顔を向けた。
「もう、あんたは…」
 そこまで言いかけると、バーサンは小さく舌打ちをしてまたスタスタと歩き出した。
彼女はどんな言葉を投げかけようとしたのだろう。散策は続く。民家と民家の間を走る、異様に狭い生活道路を過ぎた先に、田んぼが広がっていた。
はるか遠くまで立派に育った稲穂が、生き物のように風で揺れている。
「どっから来なすった」
いきなり耳に誰かの声が飛び込んできた。驚いて振り向いた先には、麦わら帽子をかぶったジーサンがニコニコと微笑んでいる。あービックリした!
「えっと、東京からです」
「ふうん。この町に何か用事でもありなさるのかい」
「いえ、特に…」
 その瞬間、ジーサンの顔からすっと笑みが消えた。
「ふうん、そうかい
 それ以上は何も聞かず、ジーサンはぷいっと去っていった。
 その後、道端で小さなほこらを見つけ、カメラに収めていたときだ。どこからとも
なく現れた作業着姿のオッサンが足早に近寄ってきた。
「あれ、アンタ、たしか●●さんとこの甥っ子だっけ?」
「え、違いますけど」
「違う? じゃ誰だっけ?」
「ただの通りすがりです」
みるみる男の顔に不審の色が浮かびだす。
「通りすがり? こんな辺鄙なところで?どっから来た?」
「東京ですけど…」
言うと、オッサンは「ふうん、東京かぁ…」とひとりごち、去り際、あらためておれの全身を舐めるように視線を走らせてからこう言い残した。
「用もないのによその町をウロウロするのは感心しないな。はやく出ていった方がいいよ」
 驚いたことに、似たような展開はその後、2、3数回ほど続いた。オッサンやジーサンがいきなり声をかけてきては、こちらの素性をストレートに探ってくるのだ。とはいえ特に威圧的な態度で迫られたわけでもなく、質問に答えれば素直に納得はしてくれるものの、彼らの、おれに対する扱いはやはり完全に不審者のそれだ。にしてもなぜ?
 周囲に振興住宅街が増えていく、つまり、よそ者の流入が増加していく過程で、もともとの閉鎖的な農村気質に拍車がかかったと考えるのが合理的な理由だろうか。