会話のタネ!雑学トリビア

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田舎のレトロな喫茶店

田舎に行けば未だにレトロな喫茶店は多く存在しますが、都内の某巨大ターミナル駅から私鉄でたった1駅という大都会にて、営業してるのかしていないのか不明なほど崩壊寸前の喫茶店が一軒存在するとの怪奇情報が有志から寄せられ、極寒の中、早速現地へと赴いてまいりました。
 都心だけあり、あっという間に最寄駅に到着し、そこから歩くこと約5分。すると今度は都心の雰囲気とは一変し、バラック小屋が立ち並ぶ一帯が広がり、周辺の壁一面にスプレーで「FUCK U PAY ME」という謎の社会的メッセージが書き殴られている、荒んだ街がその姿を突如現しました。恐る恐る周囲を観察するとそれら危険ゾーンのちょうど真ん中に位置する場所、そこに該当らしき崩壊寸前の喫茶店が一軒ポツリと佇んでいました。二階建ての民家の一階部分が店舗となっているのですが、なんと店の看板のシートのほとんどがビリビリに破れています。まるで台風やハリケーンが去った後かと思うほどその様は酷く、おそらく店名を記していたであろう箇所も完全に裂けているのでここが該当の店かも完全には確証できませんでした。どうしてこうなったのか、完全に人の手が加わったとしか思えない裂け方をしています。
「FUCK U PAY ME」の対象になったのかもしれません。やはり通りかかる人々は一様にギョッとしてその建物に目をやり「なんだ、廃墟か」と納得した顔をして去って行きます。しかもやたらと日当たりが良いせいか、窓に光が反射して中の様子がまったく窺えず、営業しているのかどうなのかすら分かりません。しょうがないからとりあえず外
観の写真を撮ろうとカメラでパチパチやっていると、なんと急に店のドアが勢いよく開き、険しい顔をした初老のママがこちらにズンズンと歩み寄ってきました。
 これは怒鳴られるパターンだと歴戦の閑古鳥店を訪問してる自分の第六感が働き、こういう時は街並みを撮っている振りをするか、逆にそのまま店に入って行くしかないので、ママに手を振りながらニコニコして近づき「お店、開いてますか?」と百万ドルの笑顔で訊ねると、「あらやだ、お客さんだったの?」とママも態度を急変させ、どうにか入店を許される運びとなりました。
 静まり返った店内は10畳ほどと狭いながらも奥にカウンター、手前にはテーブルがギッチリ詰めて並んでおり、座席数はなんと14。かなりの客入りを見込んでいるようでありました。カウンターの奥には店のマスターらしき初老の男性が仁王立ちしており、どうやら先ほどのママと夫婦で営んでいる様子。テーブル席に着席すると、早速ママがお冷をテーブルの上に置いてくれたのですが、急にテーブルを両手で掴んだかと思うと上下にガタガタと揺らし出しました。何事かと驚き、ひょっとして先ほどの撮影の事への怒りを表現してるのかと思ってたら、「あれ? おっかしいな〜」と言い、奥へ行き、再び戻って来たかと思うとゴムのようなものをテーブルの下と床の間に差し込み「これでもう安定すると思う。ちょっと様子見て」と言われました。
 自分もこれまで数々の喫茶店に通ってきましたが、着席するなりテーブルを安定させるため床にゴムをかます店は初めてでした。店内の壁にはこの店の外観を描いた絵画が飾ってあり、まだ看板のシートが破れる前の在りし日の姿がそこにはありました。とりあえずアイスコーヒーとチーズトーストを注文。マスターが作業に取り掛かり、一方のママは入口のドア窓から外の様子をじっと観察しています。確かに外からでは光の反射で中の様子は見えませんでしたが、中から外は一目瞭然、まるでマジックミラー号のよ
うでもありました。
 客がいないせいもあってか、珈琲は注文から30秒で到着。するとその途端、急に店内に激しいジャズの音が鳴りだしました。ふとマスターの方を見るとまんざらでもない表情。どうやら客がドリンクを飲んでいる間だけ店内のBGMを流す、とてもエコなシステムとなっているようでした。結果、45分ほど滞在しましたが客はついにゼロ、最後までジャズのトランペットとサックスの爆音だけが悲しく鳴り響いていました。
 会計をしようと席を立ちふと隣の席を見ると「おみやげ3240円」と書かれた紙袋が置いてあったので見ないふりしてレジへと急ぎました。店をあとにして一息つき、入店時にあまり撮れなかった外観を撮影。するとなんとまた再びママがドアを勢いよく開けてこちらに早歩きして来たので、しょうがないからカメラの向きを変え「FUCKU PAY ME」を難しい顔して撮りつつ、カニ歩きで駅へと向かいました。