古本・CD・ゲームすべてを手広く取り扱って今や虫の息となっている都内の某店が、復活を賭けたウルトラCの秘策に乗り出したという怪情報が舞い込み、早速現場へと
急ぎました。
東京西部に位置する住宅密集地、某地下鉄から徒歩5分という好立地にその店は存在しました。
大通りにも関わらず夜7時の時点で既に一帯は暗く静まっていますが、100メートル先からでも確認できるほど煌々と黄色く輝く看板が目に付きました。これだけ黄色く目立つ店は日本広しと言えど、ゴーゴーカレーか、この店ぐらいのものでしょう。看板には「ブック・CD・ゲーム・DVD・ビデオ・雑誌高価買取」と噂通り手広く記されています。
小さい頃はこんな店が家の近くに一軒あるだけでワクワクしたし、そこが子供たちの集合場所になり、そこに行けば誰かいるという安心感がありました。
しかしそんな子供たちの憩いの場も今や昔、店のガラスに貼られた紙には「ちょっぴり♥な立ち飲み屋」「ラストチャンス」「飲み物オール280円」「ダーツ無料」「漫画読み放題」と記されており、その暗中模索ぶりが覗えます。ドアの取っ手の横にも同じく「ラストチャンス」と記されており、入店する客に無言のプレッシャーをかけてきました。恐る恐るドアを開けるといきなり目の前にカーテンが現れ、それによって店内が迷路のように細かく仕切られていました。ランプで照らされた厚紙には「↑アダルトコーナー AV TENGA 雑誌」とあります。反対の右側にはビールやハイボールの空缶が並んでおり、「280円」というシールが貼ってありました。隣の棚にはポテトチップスやカラムーチョなどのスナック菓子が綺麗に飾られて、その奥へ行くとテーブルが2つ、さらに奥にはカウンター席があり、こちら向きにニット帽をかぶった店主らしき初老の紳士が立っていました。
店主が百万ドルの笑顔で会釈しながら「いらっしゃいませ」と丁寧な挨拶をしてきたのでこちらも思わず深々と頭を下げて「はじめまして」と会釈しましたが、よく見ると
2人の間にはAV女優のサイン色紙が所狭しと並んでおり、何とも間抜けな画ヅラと相成りました。
客はカウンターに一人、テーブル席に一人、どちらもスーツを着たリーマンのようで漫画を熱心に熟読中の様子。とりあえず缶ビールを注文し、手前のテーブル席で日本酒
のワンカップを飲みながら漫画「ブラックジャックによろしく」を速読術のような勢いで読み耽っているリーマンの前に着席。
リーマンの奥には幅50センチほどの狭い通路があり両サイドの本棚には漫画本がギッシリ並び、その奥にはベニヤ板に貼られたダーツの的がありました。しかしこの通路の幅の狭さでは客が漫画を取りに行った時に、別の客がダーツをやりはじめようものなら大参事は避けられないでしょう。
主人は缶ビールを手渡ししながら「この店、入りづらいでしょ?」「どこから来たの?」「この店は知ってた?」といきなりの取材攻勢を繰り出してきました。聞けば元々は古本屋だったらしく、のちにアダルトコーナー、ダーツコーナーを作り、昨年から呑み屋もプラスして「ラストチャンス」の営業をしているとのこと。棚に置かれたテレビではスカパーの海外サッカーを放送しており、
「常連客にサッカー好きが多くてワールドカップの日は朝まで盛り上がるんだよ」とのことですが、今いる客は2人とも日本酒のワンカップを飲みながらサッカーには目もくれず、漫画だけに一点集中しているようでありました。2本目のハイボールを飲んだところで酔いが回り、なんとなくアダルトコーナーへ。アダルトDVDやエロ本が所狭しと棚にギッシリ並んでおり、こちらはすべてセルのみ。そして店頭に記されていた通り、
TENGAコーナーがやけに充実しておりました。そしてさらに奥地のマニアックコ
ーナーへ進むと、なんと驚いたことに客が一人いたのであります。いつの間に入店したのか、客はこちらの存在に気付き既に手にしていたアダルトDVD5枚と謎のアダルト器
具を小窓にサッと出して主人と素早く金銭のやり取りを無言で交わし、そそくさと店をあとにしていきました。
席に戻ると店主は何事もなかったかのようにサッカー中継に熱中しており、常連リーマン2人は相変わらずワンカップを手に漫画。
なんだか間が持たなくなり、何となくテレビの横に設置されていたパソコンについて店主に訊ねてみると
「これはネットカフェみたいなもん。ユーチューブとか自由に見ることができるんだよね」と誇らしげに答えてくれ、「あ、でもスケベなチャットとかしたら駄目だよ? エロい動画とかここで見られたら困るよ」となぜか急に注意を促された形となり、その途端にリーマン2人が初めて顔を上げてこちらを目視してきて、妙な空気が店内を包みました。これ以上は居てはいけないと第六感が判断し、また来年来ますと心の中で誓い店をあとにしました。