会話のタネ!雑学トリビア

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事故を起こす次男、 カネを取られる義母

親父が家を出たきり帰ってこず、母親はすっかり老け込んでしまった。せっかくまたやりなおせるはずだったのに…。そんな折、オレの携帯に見知らぬ番号から着信があった。折り返してみれば、なんと弟の健輔ではないか。こいつは建部家の次男で、AV女優だった妹の由佳から50万円を借りたまま行方をくらましていた。会社の同僚には「カネが貯まったから沖縄に住む」と告げていたそうだ。いったい急にどうしたんだ。
「久しぶりだな。どうしたんだ、いきなり」
「母さんから聞いたけど、子供産まれたんだって?
いま近くにいるから顔見てってもいい?」どうやら母親にカネを無心しようと電話をかけて、ウチの吉事を聞いたらしい。
「いいけどどうやって来るんだよ?沖縄じゃなかったのか」
「いまは埼玉だよ。オレ免許とったから車で行くわ」
健輔は電話を切って5分もしないうちに我が家へやってきた。以前よりも浅黒い肌で、ジャケットを脱ぐとタンクトップ姿だ。ヒゲなんかも伸ばしてるし、いかにも沖縄で楽しんでましたってな風貌だ。
「よう兄貴。あっ、真由美さん、結婚おめでとうございます。オマエが夏美かぁ〜」
挨拶もそこそこに娘の夏美を抱く健輔。コイツ、こんなキャだったっけか?
昔は暗くて、半分ニートみたいなもんだったのに。
「お前さ、沖縄からいつ帰ってきたんだよ」
「先週だよ。友達が仕事紹介するって言うからさ」
サッカーを教える仕事について毎日頑張っているという。もう少しすれば支店長の肩書きも用意されているのだと。
「由佳にカネは返したのか?」
「いや、それはまだなんだけどね」
健輔はお茶も飲まずに「また来るよ」と嵐のように去っていった。ま、親父はいなくなったけど、またこうして賑やかな家族と触れあえるのはいいことなのかもな。しかし我が家を訪れた人間は、必ず災難を被る。これはもう、天の与えた約束事なのだ。翌日、まるであらかじめ決まったシナリオであるかのように、母親から電話がかかってきた。
「健輔が事故をしたって…」
「え!」
「ケガはないみたいだけど、サッカーの子供たちも車に乗ってたんだって。今日ウチに来るからちょっと叱ってやってよ」
夜、実家に顔を出すと明らかに落ちこんだ様子の健輔がいた。心なしか浅黒い顔が少し白んでいるようだ。
「なんでまた事故ったんだよ?」
「なんでって…」
ゆっくりと口を開いた健輔によれば、サッカー練習場に子供たちを送り届ける途中でなぜか急に眠くなり、ガードレールにぶつけてしまったそうだ。幸い、健輔にも子供らにもケガはなかったので安心は安心なのだが。
「急に眠くなるってなんだよ」
「そんなのオレにもわかんないよ。とにかく生徒の親から会社にものすごいクレームが入っててさ」 
内定していた支店長の職も白紙になったそうだ。そりゃそうだろう。居眠り運転なんて、即解雇されてもいいぐらいだ。
「はぁ…」
健輔の顔はニートだった昔の表情に戻っている。その遠因が何かなんて、もちろん伝えるわけにはいかない。当連載にたびたび登場する義母の昌子さんが、師走に入ったばかりの土曜日、笑顔でウチに帰ってきた。
「今日はピザでも食べましょうか。アタシがおごるから」
上機嫌の義母は軽快にピザを注文し、居間でニヤニヤしている。何か聞いてほしいときの表情だ。
「イイ事でもあったんですか?」
「えっ、なんでわかったの!?  あの人と明日会うのよ」
あの人とは、グリーで出会った稔さんだ。数回デートしたのちに彼の恋人から「稔に近づいたらただじゃおかない」とまで言われたにも関わらず、まるでストーカーのように毎日公衆電話から連絡していた相手である。
「へぇ、久しぶりのデートですね」
「そんなんじゃないわよ、もう」
パシっと肩を叩いた義母は、一家心中の部屋でハンガーに洋服を数着かけながら「こっちかな〜」と悩んでいる。アンタは乙女か。にしても、いったい稔さんはどういう心境の変化でまた会うことにしたんだろう。翌朝、8時に目を覚ますと義母の姿はすでになかった。こんなに早い時間から出かけたってことはどこかへ遠出か?義母が家に帰ってきたのは夜の11時すぎだった。日帰り旅行にでも行ってたんだろう。
「ただいま〜。いやー、出たね。ほら、お菓子食べる?」
いきなりお菓子って。どっかのお土産ですか?
「朝から並んだかいがあったわよ。結局プラス10万くらいかな」 
…まさかデートってパチンコかよ。
「一緒にパチンコに行ったんですか?」
「そう、ワタシのほうが爆発したんだけどね」
久しぶりのデートがパチンコってのもいかがなものか。話を聞きつけた嫁がリビングにやってきた。
「お母さん、勝ったんならお小遣いちょうだいよ〜」
「ダメよ」
「いいじゃん。5千円だけ、ね」
「ダメだって。5千円も渡したらワタシがすっからかんよ」
は?さっき10万勝ったって言ってなかったか。
「何に使ったのよ?」
「あの人に渡したの。だって悪いでしょ?」
信じられない。義母は勝ち分のほとんどをグリー男に渡したと言う。その翌週も義母は早朝から出て行き、夜に帰ってきた。
「今日はダメだったわ」
またパチンコだ。今日は彼が勝って、自分は負けたのだと。
「じゃあ今日は、稔さんにお金もらったんですか?」「どうして?」
「だって先週はお義母さんが渡してなかったですっけ?」
義母は不思議そうな顔をしている。
「今日も私が渡したわよ。だって1日付き合ってくれたんだから」
どういう理屈なのだろう。しかもよくよく聞けば、パチンコの軍資金は前回も今回も義母が出したという。 それってカネをむしり取られているだけなのでは。稔さんはパチンコを打つために、義母に会うことにしたのでは。このまま放っておけば、彼女の財政は破綻し、いずれ我ら夫婦にもその影響はやってくるだろう。ああ、いったいどうすりゃいいんだ。