会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

子供に痛い名前を付ける親

親が我が子にどんな名前をつけても勝手だし、たとえそれがヘンテコなものだったとしても、アカの他人がとやかくいう筋合いはない。だが、それにしてもである。ここ最近、あまりにワケのわからん、聞いててイライラする名前が多すぎないか。
恋空(れいら)だの、姫冠(ていあら)だの、蹴人(しゅーと)だの。バカではなかろうか。脳ミソのどこをどうこれくり回せば、そんなふざけた名前を思いつくのだ。子供だってたまったもんじゃないだろう。この先、人生のいろいろな場面で、世間の失笑を買い、愚弄され、哀れみの宝視線を一身に集めるであろうことは目に見えている。

「親の顔が見たい」とは、まさにこういうときにこそ使われるべきフレーズだろう。イタい名前をイタいとも思わず、むしろ「カッコいいぜ」と信じてやまない世のバカ親たちとはいったいどんな人種なのか。まことに興味をそそられるではないか。ツテはある。俺の地元に、高校時代の同級生が保母さんをしているのだが、現在、彼女の職場にイタネームを持つ園児が複数いるらしいのだ。
さっそく保母さんに情報をもらう。
「3人いるんだよね。うちの保育園に2人と、友達が働いてる保育園に1人」
我が故郷は、人口5万人にも満たない、小さな田舎町であるそんな過疎地域でさえ、イタネームがぽろぽろと見つかるとは由々しきブームがいかに全国的に浸透しているかがよくわかる。

はあとちゃん(3才)
3音にそれぞれ漢字をあてはめている。「あ」の字にはプラスの意味合いがあるが、他の2つは単に同じ読みの字をあてただけ。暴走族の夜露死苦のイメージに近い。

きんぐくん(3才)
こちらは、とある漢字を英語読みにしたパターンだ。皆まで言わなくてもわかるだろう。

りつきーくん(2,3才)
やや説明が難しい。漢字2文字とだけ言っておく。ともかくなかなかの大物ぞろいだ。田舎のバカはレベルが高い。
「でさ、この親ってどんな感じ?」
単刀直入な質問に、彼女は苦笑いを浮かべた。「…ん、私の立場からは元ちょっとねえ。自分で確かめなよ」
ここまで協力しておきながら職業倫理を持ち出すか。ワケわからんやっちゃ。
「とりあえず保育園に来なよ・4時ごろには家族のお迎えがあるから。これがきんぐ君で、こつちがはあとちやんね」
写真を見せられたが、ガキの顔なんて特徴がなくて覚えられないよ。どっちもまあまあ可愛らしいんじゃないの?

翌日、午後4時。保育園前の空き地でタバコを吸っていると、園児を迎えにきた車が1台、また1台と現れはじめた。玄関には母親を待つ園児が4,5人、保母さん2人に付き添われてウロウロしている。
スパイ保母が、一人の子供の肩を抱きすくめながらこちらに目配せしてきた。はあとちゃんだ。事前に〈ピンクの服〉とメールをもらっていたので間違いない。まもなく、1台の白いワンボックスが保育園の入り口付近に止まった。ヒョウ柄のパーカーを着た若い女性が現われ、まっすぐ、はあとちゃんのもとに歩いていく。母親らしい。遠目からみても、ギャルっぽい濃いめのメークが丸わかりだ。いかにも想像どおりといいますか、知的な印象はナッシングである。
続いて、作業着姿の父親らしき男性も降りてきた。坊主頭にアゴヒゲを生やし、これまたガラが悪い。彼は道端でタバコを吸いながらひんぱんに「カー、ペッ」とシバを吐いている。意味もなく周囲を威嚇するような目つきが実にチンピラチックだ。はあとちゃんの漢字に、『夜露死苦』的センスを感じとった私のカンは、するどく正しかったといえよう。
「帰るよ!グズグズしないの」
母親の声には、不機嫌な態度がありありだ。どうやらダンナとケンカ中のようではあとちやんを抱っこしながらも何ごとか言い合っている。
「……だから、もういいって。
……にすればいいじゃん」
「うつせーな」
「…のところに?え?フザケんなってマジで」
「うつせ-んだよ」
のっけから香ばしい展開です。雪道を加分ほど走ったところで、ワンボックスはコンビニの駐車場にとまった。3人がぞろぞろと店内へ入っていくのを見届けてから、少し間をあけてあとに続く。両親は子供をわきに放ったらかしたまま、雑誌を読んでいた。
しかも堂々としゃがみ込んで。買い物をする気配はみじんもない。単に立ち読みが目的だったということになる。お迎え帰りのお楽しみか?
たっぷり5分ほど立ち(座り)読みを楽しんだあと、次に一家が向かったのは、ファミレスだった。晩飯には少しはやいと思うが、テーブルには次々と料理が運ばれてくる。そのほとんどがピザばっかりだ。父親が手酌でビールを注いでいる。確かあんた、運転手だったのでは?
それに、その行儀の悪さはなんだ。足を長イスの上に放りだしてるし。挙げ句にゃ、バカでかい声で電話しだしちゃったよ。
「〜〜冗談だって。ガハハ〜〜冗談だって-.」
やたら「冗談だって」の言葉ばかりが聞こえてくる。冗談好きなお父様なんですね。父親に肩車され、騒音とタバコの煙で充満したパチンコ屋に消えていくはあとちやん。そのけなげにはしゃぐ様を、俺は万感の思いで見守った。名前負けはするまい。ハート(心臓)は強くなりそうだ。