会話のタネ!雑学トリビア

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格差社会を象徴するトランクルーム難民

一時期、格差社会を象徴する存在として、ネットカフェ難民が話題になったことがある。住む家がなく、だから定職にも就けず、日雇いバイトをしながらネカフェで暮らす彼ら彼女らの姿に、世間は同情し、そして困惑した。日本という国はいつの間にこんなひどい有様になったのだと。
 それから数年、社会的弱者を取り巻く状況は少しは改善したのだろうか。答えは否だ。というのもここ最近、ネカフェに暮らすことすら経済的に苦しい人たちが、トランクルームという名の倉庫に住みはじめてるのだ。トランクルームとは個人向けのレンタル倉庫のことで、都心なら広さ2畳程度のスペースが月2万前後で借りられる。毎日ネカフェのナイトパックで寝泊まりした場合、1回の料金が1千200円としても、月3万6千円かかる計算になるが、トランクルームならその半分弱程度で済むわけだ。
 そのうえ標準的なトランクルームは、倉庫スペースが建物の中に設置されており、空調によって一年中適温が保たれている。そういった意味ではたしかに住んで住めないことはないかもしれない。が、あくまでトランクルームは倉庫。
トイレも水道も電気もガスも、場合によっては窓すらない、ないない尽くしの住環境である。そんな場所で彼らはいったいどのような暮らしを送っているのか。そもそも、そうなった経緯とは?
まずお話を伺うのは、都内某所のトランクルームにお住まいのAさん(43才、バツイチ)だ。よれよれのTシャツに染みの目立つ作業着ズボンという出で立ちで、髪もボサボサ。こういっちゃなんだが、いかにもアレな雰囲気である。じゃあ、とりあえずここに住むことになった経緯からお話しすればいいですかね?
 キッカケは去年、勤めてた会社が倒産したことです。その時はまだ中部地方に住んでたんですけど、田舎だし、歳も40過ぎてるしでなかなか次の職が決まらなくて。そうこうするうち失業保険も切れちゃって、思い切って上京してきたんです。東京なら仕事があるんじゃないかと考えてね。
 でも甘かった。最初は安いアパートを借りていろんな求人に応募したんだけどかすりもしない。正社員という条件にこだわりすぎちゃったんですね。そのうち元からさほどなかった貯金も底をついて、慌ててはじめた引っ越しバイトで腰を痛めちゃったのが運の尽きです。結局、家賃を2カ月滞納してアパートを追い出されて、サウナやマンガ喫茶で寝泊まりする生活に転落したんです。
 そこからはもうヒドイもんですよ。住所不定だからやれる仕事は日給8千円の日雇い派遣バイトだけ。それだって毎日ありつけるわけじゃないのに腰も悪いから、仕事内容によってはこっちから断る場合もある。週に3日しか働けないとかザラだし。そんな有様だから、いつしかマン喫での寝泊まりもキツくなってきちゃって。
 ちょうどそんな時でしたかね。トランクルームに住んでる人の書き込みをネットで見つけたのは。都内でも安いとこなら月1万5000円ほどで借りられると知って、これだ!と思ったんです。月1万5千円なら1日の宿泊費はたった500円ですよ。これは大きいですって。書き込みによれば、24 時間出入り可能で、管理人が常駐してないところがベストらしいので、業者のHPを見比べたり、実際に内見しに行ったりして、いまの場所に決めました。
 契約には現住所が確認できる身分証が必要とのことだったので、免許証と以前住んでいた都内の安アパートの住民票を持参しました。住民票はアパートを退居した後も転出届けを出さず、そのままにしておいたものですが、審査はすんなりパスしましたよ。ある程度覚悟はしてましたが、住み始めてからの不便さは想像以上でしたね。
 まず朝は、倉庫内に窓がないので、いつも真っ暗闇の中で目を覚ますことになります。普通の住宅に住んでいれば、目覚めた瞬間に今日は晴れてるのか曇ってるのか、それとも雨が降ってるのかを無意識に確かめるでしょ? でも、ここはそういうことがいっさいない。毎朝、気が滅入るというか、漠然と不安な気持ちで一日が始まるんです。
 で、それから小便するにも顔を洗うにも近所の公園まで歩いていかなきゃいけません。なにしろトイレも洗面台もないんですから。朝の支度が終わったら、仕事がない日でも、事務所に管理人がやって来る9時前には外出します。
 どこのトランクルームも同じなのですが、居住は厳禁。管理会社にバレたら即時解約になるんです。だから管理人とはなるべく顔を合わせないのが重要なんです。日中の過ごし方は、仕事があればそのまま夕方まで働き、ないならないで図書館で読書したり、公園で昼寝するだけ。ただどっちのパターンにせよ、ケータイの充電は毎日欠かせないので、帰る前に必ずマックみたいなコンセント使用OKの店に立ち寄ります。トランクルームに電源はありませんから。
 他にも不便な点を挙げればキリがないですが、とにかくマン喫で当たり前にできることが何一つできないんだから本当に参りますよ。
 何より、私が一番怖いのが眠っている間のイビキです。トランクルームは利用者が24時間出入りできるので、もし誰かに聞かれたら管理会社に「寝泊まりしているやつがいる」と連絡されるかもしれない。そうなったらもうアウトです。調べられれば、生活してる証拠がゾロゾロ出てきますから。なのでいつもは、洗濯ばさみみたいな器具で鼻をつまんでから寝ることにしています。こういう生活を4カ月も続けてるんですが、正直、もう疲れちゃいましたね。
 次にご登場いただくBさん(24才、独身)は、現在、神奈川県某所のトランクルームに住んでいる。どこか目つきの鋭いちょっとコワモテ風の彼は、何故、倉庫住まいすることになったのか?俺、無職でも何でもないっすよ。ちゃんと食品加工会社の社員だし。じゃあなんでこんなとこに住んでるかっていうと、住んでたアパート(家賃4万円)を追い出されたからっすよ。ちょっとトラブルがあって、同じアパートの住人を2人、殴っちゃって。
 で、大家がチョー切れて、出て行かないなら民事裁判するって言いだすんだから、引き払うしかないっしょ。そんなことされちゃ、100%勝ち目ないんだし。問題は、次のところへ引っ越すための金が全然なかったことっすね。貯金ゼロどころか、サラ金の借金が50万あって。おまけに給料は手取りで15万ぽっちだし、どう考えても無理なんですよ。じゃあどうしよっかなーってときに、思いついたのがトランクルームだったんす。もともと知り合いが物置として借りてたんですよ。倉庫の中にコンセントもあるし、空調もバンバン利いてるし、もしかして使えんじゃね? って。
 すぐにそいつの荷物を出してもらって、俺が住み始めたんです。俺の場合、トランクルームに住み始めてからも、朝の様子は以前とあんま変わってないすね。7時に起きて顔洗って、7時半には会社に向かうって感じ? ここってトランクルームを使う人のための共同トイレが男女用に1つずつあるから、歯みがきや髭ソリなんか全部できちゃうんよ。むしろ面倒なのは帰宅時ですね。仕事が終わってクタクタになっててもすんなり帰ることができないんです。
 夜9時までは管理人がいるし、10時〜11時の間は他の契約者も割りと出入りしてるから、その時間帯は避けたいんすよ。あいつ、何だかいつ来ても見るよなって思われたらやっぱマズいんで。まあ、いつもサウナとかに寄れるなら別にそれでもいいけど、さすがにカネ的に毎日ってわけにもいかないから、ブックオフとかで立ち読みして時間を潰すんです。だから戻ってくるのは毎晩11時半ごろじゃないすか?
 で、そっからもまた面倒な問題がある
んですよねえ。このトランクルームって、館内照明が人感センサーで点く仕組みになってて、たとえば夜中にふとションベンしにトイレに行くと、フロア中が一斉に明るくなっちゃうんですよ。いかにも電気を食いそうだし、そうなったら管理会社も絶対、不審に思うわけじゃないすか。こんなに電気料金がかかるわけがない。誰か住んでるんじゃないのかって。実際はそんなことないのかもしれないけど、リスクは負いたくないから、俺、夜中のションベンは空きペットボトルにジョロジョロやるようにしてるんすよ。まあ、それはまだいいとして、最悪なのはゲリになったときですね。そういう時はコンビニ袋にブリっちゃうんだけど、もう言わなくても想像できるでしょ? あれ、マジで精神に来るのよ。ああ、いい歳こいて俺、何やってんだって。
 トランクルームって言ったってどうせ倉庫で寝るだけだろ、ラクショーじゃんって思ってたけど、舐めすぎでしたね。マジで。唯一、良かったことと言えば、浮いた家賃の金を借金返済に充てられることかな。この際だし完済を目指しますよ。最後、東京郊外のトランクルームで暮らすのは、なんと女性である。C子さん35才。
 ちなみに彼女は、編集部スズキがテレクラでしゃべった女性で、その会話の中でトランクルームに住んでいることを打ち明けてきたというパターンだ。いわば彼女のその告白が、本ルポを行うきっかけとなったと言ってもいい。栃木から出てきて派遣社員やってます。ずっとアパートで一人暮らししてて、倉庫も借りてました。洋服を置いておくために。でもだんだん洋服に使うお金が増えて生活がしんどくなってきたら、アパート
の家賃を払うのがバカバカしくなってきちゃって。だから半年前くらいに引き払ったんですよ、アパートのほうを。
 普通は逆? まあそうですけど、アパートは6万円で倉庫は月1万円だし。別に寝るだけなら倉庫でいいかなって。まあ、しんどいと言えばしんどいですね。だって朝起きたらまず公園で顔を洗わなきゃいけないし。で、いったん戻ってから化粧してって感じですかね。
 今も派遣やってるんですけど、仕事は昼からなんですよ。前は朝10時ごろに起きて、テレビ見ながらゆっくりごはん食べてたのに、今は8時には外出してそのへんのマックとかで食べてます。管理会社のスタッフに見つかるとヤバイから。で、お昼は派遣に行って、帰りに洋服買ったり、お金なくなったら前みたいにテレクラにかけたりとかしたりして、倉庫に戻ってくるのが夜10時とか。そこから銭湯ですね。面倒なときは入らないこともあるし、あとテレクラの人とホテルでシャワーしたときは、もう夜は風呂なしですね。
 寝る前は何してるかって? 何もしないですよ。コンセントないですから。ケータイでゲームとか、それぐらい。まあ不便だけど、またアパート借りるお金もないし、別にいいかなって思ってますけど。今回取材した彼らいわく、毎日倉庫に出入りしていると、自分と同じような生活臭のする人をたまに見かけるそうだ。ひっそりとトランクルームに住む倉庫難民たち。そろそろ社会問題化しそうな気配もする。