会話のタネ!雑学トリビア

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パチンコが賭博で逮捕されない理由

公営ギャンブル以外は違法とされている我が国で、なぜか堂々と営業している賭博場、パチンコ。どう考えても納得できない。明らかに換金が行われているのに、どうして店も客も逮捕されないのか。
 まずは一市民として通報することにした。駅前がパチンコ屋だらけの、某県某地域の警察署へ突入だ。総合受付の屈強な男性に「パチンコ屋の件で生活安全課に話をしたい」と伝えたところ、内線電話で連絡を取ってくれた。
「じゃあ繋がったのでお話しください」
 この電話で伝えろってことか。
(●……探偵 ○……警察)
○はい。どうされました?
●いま駅前のパチンコ屋付近を歩いてきたんですけど。
○はい。
●見てたら大変なことに気づいてしまって。
○はい?

●パチンコ屋から出てきた人たちが皆、換金所らしき場所に向かうんですよ。
○……。
●それで、現金を手にしてるんですね。それははっきり見ました。
○はあ。
●あれって完全にギャンブルだと思うんですけど、あんな大っぴらにやってていいんでしょうか?
○はあ。失礼ですが、お宅様はパチンコはやられないんですか?
●僕はやったことないです。
○一度もやったことない?
●ないですね。だからびっくりしたんですよ。パチンコ屋って堂々と賭博行為してるんだ、って。
○うーんとですね…。
●はい。
○パチンコ屋って、お金を入れて、当たって、玉が貯まったら景品に交換してるんですよ。
●はい。
○で、その景品をですね、買い取ってる場所があるんです。それはパチンコ屋さんじゃなくて、近くにある別のお店なんですけども。
●買い取るんですか?
○はい。それがお宅様の見た店なんですね。パチンコ屋とは関係のない店が景品を買い取って、お金を渡してるってことなんです。
●え、でもパチンコ屋から出てきた人はみんなそこに向かってましたよ。その景品を売るのが当たり前みたいな感じでしたけど…。
○そのへんは私どもはわからないですけどね。パチンコ屋の周囲に景品を買い取るお店があるので、皆さんそこに向かうんですよ。
●うーん。
○パチンコ店内で景品をお金に換えたらもちろん賭博とか、そういう罪になるんですけどね。
●はい。
○そうやって別のお店で景品を売る分には罪にならないんですよ。
●でもその景品を買い取る店がパチンコ屋のすぐ近くにあるのは、明らかにそれ目的だと思うんですけど…。
○うーん。そこは私どもにはわかりません。当然パチンコ屋とはまったく別の会社が経営してますので。逆にパチンコ屋と景品交換所に繋がりがあるとか、同じ会社が運営してるとかがあれば、当然違法なので摘発はしますけどね。
●それって建前上は別会社にしてるだけなんじゃないですか? 明らかに関係あると思いますけど。
○うーん。ですがパチンコ店内で換金してない以上は法律的になんら問題ないのでねぇ。もちろん店内で換金してたら問題ですから。
 以降も同様のコメントに終始した。パチンコ屋と換金所ってまったく関係ないんだ。ふーん、そうだったのか。
 続いてもパチンコ屋だらけの街にある警察署に向かった。やはり受付から内線電話を繋ぐ形でやりとりがスタートだ。

○生活安全課です。
●こんにちは。あの、パチンコ屋のことなんですけど。
○はい。
●さっき近くで見てたら賭博行為をしてるのがわかったんですよ。
○…へ?
●パチンコ屋で遊んで、換金してる人たちがいるんです。間違いなく目撃しました。
○…えーっと。
●ギャンブルって違法ですよね?賭け麻雀とかは摘発されてますし。
○いや、えっとですね。
●僕パチンコやったことないので、今日初めて見てこれはヤバイと思ったんです。

○あ、パチンコされたことないんですか?
●僕はないです。でも見てたら多くの人が換金してました。
○あの、それはパチンコ屋さんの近くのお店で、換金というか、景品を交換してもらってたんですよよね?
●そうです! みんな換金所みた
いなところでお金にしてました。
○そのお客さんたちがなにか手に持ってたと思うんですけど、それが景品っていうものなんですね。
●はい?
○なんか四角い札みたいなのを持ってたと思うんですが。
●ああ、はい。
○パチンコ屋さんは当たりを出したお客さんにその景品を渡してるだけなんですよ。で、お客さんはその景品を近くの交換所に持っていってお金に換えてるんです。
●はあ。
○だから違法ではないんですよね。いちおうは。
●え、「いちおう」ってどういうことなんですか?
○あー、アハハ。つまり交換所で現金に換えるというひと手間を挟んでるから法には触れないということです。
●うーん。じゃあパチンコ屋が直接換金すると問題があるから、間に景品を挟んでるんですか。なんか法の抜け穴をついてる感じがしますけど。
○そうですね。よく言われます。ワタシ自身もどうかなって思う部分はありますしねぇ。
●警察の方でもヘンだなって思われるんですか?
○まあ、ねえ。いちおう交換所はパチンコ店とは無関係なのでどうしようもないのですが。なんかちょっとズルイとは、個人的には思いますよ。
●でも摘発しようにも手が出せないんですか。
○うーん。あの、パチンコ店内で直接換金してるのならね、すぐに動くんですよ。だけどいちおう法律的には問題ないので…。
●そうですか。
○そういった問い合わせをときどきいただくのも確かです。貴重なご意見ありがとうございました。
 この方のあくまで「個人的な」意見ではあるけれど、警察内にもこの状況をよく思わない人間がいるのは確かのようだ。
 さて、いよいよ自首といこう。
 今度は目撃ではなく、あくまで自身が罪を犯したと考えての行動だ。警察署に入り、受付の男性に声をかける。
「あの、自首したいのですが」
「はい?」
「パチンコをギャンブルと知ったうえでやって、換金してしまいました。すみません」
 男性からは、なかなか次の言葉が出てこない。
「えーっと、そうしたら生活安全課に案内しますので、どうぞ」
エレベータに乗り上階へ。刑事ドラマに出てきそうな渋いオジサン刑事がやってきた。
○えーっと、どういうご用件で?
●自首といいますか…。さっき初めてパチンコ屋に行ってしまったんですけど。
○……ん?
●それでお金入れて、やってたら当たりになったみたいで、その玉を店員に渡したんですよ。そしたら近くの換金所でお金に換えてもらいまして…。
○……。
●これって、ギャンブルですよね。途中から悪いことしてるのわかったんですけど、お金に換えてもらっちゃったんです。
○いや、いやぁ。
●だけどやっぱり悪いことなんで、警察で正直に話そうと思ってきました。すいません。
○うん、それって店内で換金してもらったわけじゃないよね?
●店内というか、すぐ近くの換金所です。
○ああ、そうですか。うーん。大丈夫ですよ。
●え? いいんですか?
○逆にどこに問題があるの?
●いや、日本では賭博行為って法律違反ですよね?
○そりゃそうだけど、パチンコでそうやってっていうのは、別に違法でもなんでもないから。
●え、違うんですか?
○パチンコ屋さんでお金に交換してもらったわけじゃないでしょ?
●違いますけど。
○だからそれは罪ではないんですよ。パチンコ屋が直接ね、玉をお金に換えたなら問題だけど。
●でもすぐ近くっていうか、ほとんど隣みたいな場所にある換金所でお金にしたんですよ。
○でもそれは独立した店だから。パチンコ屋とは関係ないんだよ。
●関係ないんですか? 関係なければ罪には問われないんですか?
○そう。そういうことになってるから。
●法律で良しとされてるんですか?
○良しっていうか、法律違反ではないんですよ。
●パチンコ屋で玉を景品に交換してもらったんですけど、それって現金と同じじゃないですか?
○いや、景品は景品ですよ。お金じゃないから。
●だけど…。
○極論だけどね、玉をお菓子とか飲みものに交換する人もいるんですよ。つまり現金とは違うってことでしょ?

●え、じゃあ玉は現金と同じ価値があるってことじゃないですか?
○それは難しいところだけど、現金と同等の価値があったしても現金に換えてなければ、それは違法じゃないのでねぇ。
●じゃあ僕は逮捕されないんですね。
○ぜんぜん問題ないよ。普通に帰ってくれていいです。