会話のタネ!雑学トリビア

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不定休の店が流行っていない理由

これまで数々の閑古鳥の鳴く店に馳せ参じましたが、それらの店に共通するのは「不定休」という点であります。客が来ないから店を休む、店を突然休むから客もあきらめて帰る、また客が来なくなり店をさらに休むという悪循環に陥っているケースがほとんどなのです。
 今回は埼玉県北西部に佇む、閑古鳥ながら80年続いている不気味な定食屋があるという噂を訊き、早速向かおうと思いましたがこちらも案の定「不定休」とのこと。
 念のため電話をすると開口一番「はぁ〜」と老人と思わしき、しわがれた小さな溜息のような返事が聞こえたので「今日は営業してますか」と訊ねると数秒間の沈黙の末「今日は休むことにしました」と、まるで今決めましたと言わんばかりの返答を頂きました。
 むしろ客が行こうとしてるんだから今日ぐらいはと言いそうになったのですが気を取り直して「明日は?」と訊ねると「う〜ん。どうだろう?」と、やっかいなクレーマーに掴まってしまったとばかりに唸るだけ。
 しょうがないので一度電話を切り、改めて翌日再び電話をすると
「やってるけど、買い物でいないかもしれない」というツンデレっぷり。このままではラチがあかないと思い、一か八か片道2時間の電車を乗り継いで店へと向かったのでありました。
 駅から徒歩10分ほどでほどなく該当の店を発見。暖簾が掛かっているのでどうやら営業中のようですが、その暖簾の電話番号の部分が何故かハサミで切り抜かれています。自分のような営業の有無を訊いてくる悪質クレーマーがあとを絶たないからなのかもしれません。
 ガラガラとドアを開けて入店すると、中は思ったより広く座席数はざっと20近く。白い猫が5匹ほど放し飼いをされてテーブルや椅子の上を元気よく徘徊しており、ツイッターに投稿したら炎上は免れないに違いありません。
 そして薄暗い店内の真ん中には年中出しっぱなしと思わしきストーブが置かれ、その前にはツルッパゲで顎から白髭を伸ばした仙人のような老人が微動だにせず鎮座していました。恐る恐る顔を覗き込むと瞳孔が確認できたので一安心して「営業してますか」と訊ねると目玉だけがこちらに動き「やってるよ」と静かに答えてくれました。
 とりあえず手前のテーブルに着席し隣をふと見ると、週刊大衆と週刊実話の1年分がコンプリートされていたので仙人ではないということは認識できました。
 瓶ビールを頼み、オススメの一品物を訊ねると「オススメ?」と自問自答するかのように考え始め、
「餃子は? それともシュウマイがいいか?」と店で最も調理が簡単だと思われる2品を正々堂々と挙げてきました。
 しょうがないので餃子と野菜炒めを注文。それ以降店主は奥の厨房へ行ったきり姿を一切見せなくなったので心配になりましたが、数分後に注文の品をよろよろと運んできました。食してみると味は至って普通なのですが、やはり薄暗い内装と飛び回る猫とどこかの組長かのような威圧感のある店主が斜め前に鎮座しているのであまり箸は進みません。
 気まずくなり「昨日は休みだったんですか」と訊ねてみると「昨日はね、猫に指を噛まれちゃってよ」と組長らしからぬ思いがけない答えが返ってきました。「どういうことですか」と深く訊くと「いやだから昨日の午前中に猫に餌をやろうとしたら指を噛まれてよ。それであーもう店無理だなと思って」と、その噛まれたと主張する指を近づけて見せてくれましたが、傷なのか皺なのかよく分かりませんでした。とにかく昨日店を休んだ理由を「猫に指を噛まれたから」と言うのだから、これがワタミの従業員だったら大変なことになっていたかもしれません。
「どうせ営業してても客こねーもん。それより来週はね、その大通りの向こうの神社で祭りがあってよ」と今度は来週の休む理由をアピールしているのか、地元の祭りについて熱く語りだしました。
 さらに「この地域は冬に大きな祭りがある。なんだと思う?」と自分の苦手なクイズ形式の会話になってきたので「追加注文いいですか」と会話を遮り、カツ丼を頼むことにしました。店主は「カツ丼、食べるの?」と驚きの表情を隠せないようでそのリアクションから察するに今年に入ってカツ丼の注文は初めてだったのかもしれません。
 しばし宙を見て指を折りながら何かを考えてましたが、意を決したのか腕まくりをして厨房へと消えていきました。それからしばらく厨房から油のはじけるけたたましい響きだけが聞こえ続けて、20分ほどして汗だくになった店主がドンブリを片手によろよろと現れました。カツ丼一つにこの労力と時間では20席をどうさばくのか甚だ疑問を感じましたが、遅れたお詫びなのか、漬物替わりなのか、キムチをあとで持ってきてくれました。
 その後1時間ほど長居をしましたが、とうとう客は一人もこず、冷房の効いていない真夏の店内は蒸し風呂状態。そんな中でカツ丼とキムチでさらに体温が上昇し、生命の危機を察して、本能が「ここを去れ」と訴えてきたので御愛想。来週の祭りの成功を祈り帰路につきました。