会話のタネ!雑学トリビア

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場末のオカマバーに入ってみた

若者の活字離れ、テレビ離れ、クルマ離れなどは以前からよく耳にしますが、最近では若者のカマボコ離れとかアカデミー賞離れとかわけのわからないものもあったりするようです。
そんな中でもアルコール離れは深刻らしく、確かに若者が呑み屋で騒いだり徹夜で呑む光景は少なくなりました。特に赤ちょうちんの店が並ぶいわゆる横丁離れはその最たるもので、店側も客側も高齢化が進行中のようです。
都内南部に佇む某横丁もご多分に漏れず既に仮死状態であり、どの店も閑古鳥が鳴いているとのこと。
某J R駅から徒歩10分という好立地にも関わらず、その閑散とした雰囲気はVシネマのロケ地としてのみ活躍しており、時が昭和でストップしているのです。
早速その地に馳せ参じてみると、大通りから一本入った脇の階段を下った先の路地裏に、その横丁はひっそりと存在していました。大通りの賑わいとは打って変わって閑散としており、その壮絶な朽ち果て具合を思わずナニコレ珍百景に投稿しようかと思ってしまいました。
100メートル足らずの横丁のラインナップはスナック7割、赤ちょうちん2割、バー1割という構成で、ミヨコだのナオだの女人の名前のついたスナックの約半数は既に看板が裏返しになって潰れており、その他の店も今日にも閉店しそうな佇まいばかりです。夜8時を過ぎても横丁を歩く客の気配は皆無でしたが、いくつかの店の看板にぼんやりと電灯がつきました。その中にひとつ、ドアに「おかまっ子」とだけ記された奇妙な店がありました。この客のいない横丁でさらにターゲット層を極限まで絞る必要があるのか甚だ疑問ではありましたが、色々と試行錯誤を繰り返して行き着いた先が「おかまっ子」という最終形態だったのかもしれません。
おかまっ子の店頭のライトはこの節電が叫ばれるご時世に反逆するかのように煌々と輝いています。ガラス張りのドアから店の中は丸見えでカウンターの奥には胸元がざっくり開いたワンピース姿の黒髪ロング、身長1 7 5 センチほどの強靭なオカマが一人、金剛力士像のごとく仁王立ちしているのが目に入りました。
恐る恐るドアを開けると相手も驚いたのか、はたまた襲われると思ったのか、胸元を両手で覆いながら上目使いでこちらの様子を窺ってきました。「一人なのですが」と告げるとようやく客と認識されたようで「こちらへぇ、どうぞぉ〜」と急に例のオカマ口調というかデヴィ夫人のような口調になり、カウンターの一番奥へと通されました。
場末のオカマバーでカウンター越しにオカマと2人きりという経験は初めてだったので少々緊張しながらも生ビールを頼んでみると「うぃ〜、生いっちょ〜」と急に板前のような低いボイスを奏でたので、「ナマ」という語感とその低音のコラボで思わずこちらも身構えてしまいました。店内にメニューは一切なく、生ビールと一緒にお通しらしきポテトサラダを出されたのでとりあえずそれでチビチビとやり始めると、オカマはよほど話し相手に飢えていたのか、聞いてもいないのに自分のプロフィールから恋愛事情、親への罪悪感、オカマT Vタレント達に対しての考察など一連のオカマあるあるトークを繰り広げてくれました。驚いたのは自分と同い年の35歳だったこと。お互いに35年前にこの世に生を受けて両親から宝物のように育てられて、数奇な運命を辿って今このオカマバーのカウンターを挟んで男と女として対峙しているわけであります。
普段は秋葉原に入り浸るアニメオタクとのことで、生計はこのオカマバーのみで立てているらしく、店の売り上げがバイト代に直結するのか、やたらとウイスキーやらバーボンを勧めてきました。料金も不明なのでそれらをやんわりと断ってると、ちょうどそこに常連らしき中年の男が入店してきました。男は入るなり「ママは?」と訊くとオカマは「もうすぐ来るんじゃないの」とそっけない態度。男はハイボールを頼み、落ち着かない様子でソワソワしながら店の外を気にしています。するとしばらくしてママらしき年配のオカマがおでこにグラサンをのせて威風堂々と店に入ってきました。ブラウスの上からでも一目で分かるほど胸の大きさは際立っていましたが、それと比例してまるで教会でゴスペルでも歌いそうなほど丸々と肥えていました。
しかし先の中年男はそんなことはお構いないしで「遅いよ、ママ。ずっと待ってたんだから」と目を輝かせてママとのトークに華を咲かせています。店内には男4人、うち2人は女装しているというこれまた数奇な運命を辿った4人の出会いではありましたが、15分ほどするとママと中年男は何やらボソボソと話し出してなんとそのあと仲良く寄り添いながら店を出て行ってしまったのです。
残ったオカマに震える声でどういうことなのかと事情の説明を求めても「まあまあ」と事の顛末は濁されるばかり。「そんなことより、もう終電ないんじゃないのぉ?」となぜかこのオカマまでも突然甘えるような声で時計をチラチラと見始めたので、何となく自分の身に危険が迫っていることを察し、会計をお願いするとなんと8千円。ビールとアセロラドリンクとポテトサラダでこの料金はひょっとしてボラれたかも…と思いつつも涙目で会計を済ませて店をあとにしたのでした。