会話のタネ!雑学トリビア

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木村拓哉味,坂本龍馬味のあるたこ焼き屋

街を歩けば東京チカラ飯だらけなことからもお分かりの通り、世の中は今密かなB級グルメブームであります。
 そんなB級グルメの定番と言えばやはりたこ焼き屋でありますが、味はどこも似たり寄ったりでここぞという名店はあまり思い浮かびません。
 そんな停滞気味のたこ焼き業界において、「店主の指先の念波で味を次々に変化させる」という画期的なたこ焼き屋が東京の下町に出現したとの怪情報を入手。その真相を探るべく早速潜入してきました。
 営業時間をネットで調べると
「昼12時から売り切れ次第終了」と記してあり、これは早めに行かなければと思いましたが、仕事の都合で到着したのは夕方17時。まだ営業しているのか心配でしたが、店の入り口横の保温ボックスには出来上がったたこ焼きのパックが山積みにされており胸を撫で下ろしました。
 店頭には「持ち帰りで味の変化を試したい方は申し出て下さい」という説明書きがあり、とにかく味を変化させたくてしょうがないようです。これは期待が持てそうだと胸が高鳴り、店に入ると店主が一人、一心不乱にたこ焼きをピックでクルクルと回していました。店内の壁には味の種類が所狭しと書いてあり「あっさり」「こってり」「さっぱり」「すっきり」から始まりなんと54種類もの味が記載されています。その「あっさり」「さっぱり」「すっきり」の時点で既に違いがよく分からないのですが中には「あっさりこくまろ」「すっきりさわかや」などどっち付かずな味もあり、さらには「太陽の恵」「初恋SP」「凛凛」などの豊富なレパートリーも取り揃えており、銀だこが知ったら地団駄を踏むに違いありません。
 とりあえず8つ入りのたこ焼きと缶ビールを頼み、恐る恐る「味を変えてほしいんですが」とお願いしました。店主は「まずは元の味が分からないと味が変わったかどうか分からないでしょ。最初はそのまま食べてみて」と言うので、アツアツのたこ焼きを一粒食しました。すると店主が指をパチンと鳴らし、たこ焼きを指さし「18番!」と叫びました。なんのことかと思っていると
「はい、18番、味が〝太陽の恵.になったよ。食べてみて」
 そう言わたので、たこ焼きを食してみると…やはり味に変化があるようには思えませんでした。そもそも〝太陽の恵.という味自体がこちらサイドは定かではありません。しかしここで「味が変わってない」などと言ってしまうと店を追い出されかねないので「味、なんか変わった気がします」と告げると店主は当然という顔つきで再びたこ焼きを焼き始めました。納得いかないまま缶ビールを開けてグビグビと飲んでいると今度は店主がカウンター越しに「はい、じゃあワープいくよ。缶の上を2回叩いてごらん」とわけのわからないことを話し掛けてきました。ワープとは何なのか。言われるがままに缶の上部を指で2回トントンと叩きます。「はい、飲んで! ビールが過去にワープして冷たくなってるから!」
 言われた通りに缶ビールを飲みながらも、頭の中はまったく変わっていない味のことよりこの後どうリアクションを取ればいいのかということで一杯です。C級タレントが超能力にかかって踊りだすのをテレビで見たことがありますが、そのタレント達の気持ちが今やっとわかりました。
 さて、気になったのは味の種類に「木村拓哉」や「ゾマホン」などの人名までもが記載されている点です。よく見ると中には「店主」というものまでありました。
 それらの味への変化を申し出たところ「味の変え方は壁に貼ってあるから自分でもやってみて」とのこと。見渡すと壁にはチャレンジ1からチャレンジ7まで様々な味の変え方の説明がギッシリと記されています。
それによると割り箸でパックを軽く2回叩いて希望の味の番号を言えばその味に変化するとのことでした。とりあえずそのまま実行して「木村拓哉」「SAYAKA松田聖子の娘)」「坂本龍馬」の味を試したのですが、もちろん1ミリも味の変化はありません。
 そこで店主に「ちょっと、味が全然変わっていないんですが…」と恐る恐る抗議してみると、店主の顔つきがアシュラマンの如く一瞬でクワッと変化し、壁をビシッと指で差しました。そこには「辛いものが好きな人、鼻が悪い人、バカには分かりません」と記載されていたのです。確かに自分はそのすべてに当てはまっています。
 何も言えずにいると店の真ん中のガラスケースの中に風車がぶら下がっているのが目に入りました。店主によれば「念波で風車を回すことができる」とのこと。是非見たいと懇願したら、店主は風車に向かって手をかざし始めました。するとしばらくして、風車がゆっくりと左に回りだしたのです。さらに店主が手の向きを逆さにすると今度は右に回りだしました。思わずスタンディングオベーションをしていると、店主は調子に乗ったのか「止まれ」のポーズをしはじめたのですがこれは難易度が高いのか、なかなか風車が止まりません。
 風車はその後いつまでも止まらずにユラユラと周り続け、ついに居た堪れなくなり、残りのたこ焼きをすべて口に放り込み、店をあとにしました。